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「私の予想は見事的中しましたよ。やっぱり鬱先生が気付いた」
「どういうことだ?」
「うんうん、エミさん言ってやって!」
「鬱先生は、彼女らの顔と名前を一人残らず覚えてますからね」
「……」
「あれおかしいグルちゃんの視線がすごく冷たい気がする」
「安心しろ、気のせいじゃない」
「あぁん」
『……』
そういうことだったのか……。
あの忠告の裏に隠された真意に、私は拍子抜けするかのような感覚だった。
そういえば以前、鬱様が使用人たちを一人一人認識しているというような話を聞いた気がする。
そしてそれは、彼が無類の"女好き"だからで。それじゃあ、もしかすると。
『私が男だったら、気付かなかったということですか……?』
「あ、多分気付いてなかったと思うわ」
――自分で言うのか。
流石の私も突っ込んでしまいそうになり、人知れず苦笑が零れた。
私のことを見抜いたのや、昨夜のちょっとした駆け引きだって、彼の優秀な観察眼や巧みな言動の成せる業だと思っていたのだが。
少しだけ、ほんの少しだけ、彼への印象が改まった気がした。
それが良い方向かそうでないかは、あえて言及しないでおこう。
まぁしかし、結局のところ私は女で、彼の観察眼と言動に負けを呈したのは事実なのだから。
『私の素性については、お話しに?』
「あぁ」
『それでは、ここにお呼びになったのは……』
「君の"力"について、詳しく聞こうと思ってな」
『……はい、私などがお聞かせできる範囲であれば、お答えいたします』
「前々から思っていたが、少し堅過ぎやしないか」
『え?』
「我々に対して、自分を卑下し過ぎじゃないかと思うんだが」
『……そ、んな』
――ことはない。
そうやってすぐに言葉を繋げられなかったのは。紛れもなく、それが図星だったから。
無言のまま私に集まる視線が、ここにいる三人ともが同意見だと語っている。
ぐるりと脳内を勢いよく駆け巡った過去の記憶が、何とも不快だった。
『――……だって、そうじゃないと』
―――生き辛かったんだもの。
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江之子(えのこ)(プロフ) - ささん» 初めまして、コメントありがとうございます。最新話のみならず読み返しまでしていただけるとは…。どうぞ、これからも長々とこの作品をご愛顧してもらえたらと思います!応援感謝です。 (2017年6月6日 16時) (レス) id: d4b2bfad59 (このIDを非表示/違反報告)
さ(プロフ) - 初めまして。えのこ様のお話が大好きです。最新話を追いつつ初めから読み直しては楽しませてもらっています。これからも応援しております! (2017年6月6日 15時) (レス) id: 91a8ff52f5 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - ahirudokuro112さん» コメントありがとうございます。毎日気にかけてくださるほど印象を残せたこと、一書き手としては嬉しいばかりです。それをこうして文字にして伝えてくださったことをとてもありがたく思います!今度とも、どうぞよろしくお願いします。 (2017年6月4日 0時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
ahirudokuro112(プロフ) - 初めてコメントさせてもらいます。いつもとても楽しく読ませて貰ってます。気づけば毎日朝と夜に更新されてないかチェックするのが日課になってます笑。ぜひこの気持ちをお伝えできたらとコメントさせていただきました。 (2017年6月3日 23時) (レス) id: f8fb3df520 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - 井戸らさん» コメントありがとうございます。私の場合、気が付いたらこんな文体になってまして、くどいかな…とドキドキしながら書いてる面があるのですが…。それを褒めていただけるのは何より嬉しいです。今後もお楽しみに! (2017年5月27日 23時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:江之子 | 作成日時:2017年5月22日 1時