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酷ない? と笑う声は、正直言って耳をすり抜けていった。
ドライヤーを握る手は無様にも止まっていて、私の動揺をありありと語っている。
「それに比べてAちゃんは優しいなぁ、なんでやろ」
先程までの眠気など嘘のように、彼は意気揚々と私に尋ねるのだ。
それに対する私の反応など、特に面白くも何ともない。ただただ、あぁ、と呆れるばかりだ。
彼にではない。
エーミール様の「鬱先生には気を付けろ」との忠告の意味を、何とも軽々しく受け取っていた自分に、だ。
止まっていた手を再び動かして、私は彼の髪の毛に指を差し入れた。
およそ機械では出来ないよう、優しく風を送るように。私は誤魔化すことを諦めた。
「……なんや、思ったより焦らへんねや」
『十分動揺しているつもりですが……。いつから、お気付きに?』
「気付いてたっていうか、半信半疑って感じ。今日もカマかけてみただけやし」
『そうでしたか……流石です、まんまと騙されてしまいましたね』
「そうみたいやね」
何がそんな仕事もあるのか、だ。
ものの見事に一杯食わされた私は、自分の間抜けさを省みて苦笑する。
「なんやぁ、普通に笑うやん」
『はい……人間、ですから』
「んひひ。そやね、人間やからね」
私の言葉を復唱して、鬱様も笑う。
ふと一抹の沈黙を置いて彼は、グルちゃんは、とぽつり呟いた。
「……知ってんの、君のこと」
声が硬くなったのには気付いた。
当たり前だ。彼とて一国の幹部、要は疑っているのである。
私が味方なのか、敵なのか。
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江之子(えのこ)(プロフ) - ささん» 初めまして、コメントありがとうございます。最新話のみならず読み返しまでしていただけるとは…。どうぞ、これからも長々とこの作品をご愛顧してもらえたらと思います!応援感謝です。 (2017年6月6日 16時) (レス) id: d4b2bfad59 (このIDを非表示/違反報告)
さ(プロフ) - 初めまして。えのこ様のお話が大好きです。最新話を追いつつ初めから読み直しては楽しませてもらっています。これからも応援しております! (2017年6月6日 15時) (レス) id: 91a8ff52f5 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - ahirudokuro112さん» コメントありがとうございます。毎日気にかけてくださるほど印象を残せたこと、一書き手としては嬉しいばかりです。それをこうして文字にして伝えてくださったことをとてもありがたく思います!今度とも、どうぞよろしくお願いします。 (2017年6月4日 0時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
ahirudokuro112(プロフ) - 初めてコメントさせてもらいます。いつもとても楽しく読ませて貰ってます。気づけば毎日朝と夜に更新されてないかチェックするのが日課になってます笑。ぜひこの気持ちをお伝えできたらとコメントさせていただきました。 (2017年6月3日 23時) (レス) id: f8fb3df520 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - 井戸らさん» コメントありがとうございます。私の場合、気が付いたらこんな文体になってまして、くどいかな…とドキドキしながら書いてる面があるのですが…。それを褒めていただけるのは何より嬉しいです。今後もお楽しみに! (2017年5月27日 23時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:江之子 | 作成日時:2017年5月22日 1時