▼ ページ13
.
そうしてその手を自身の口元に近付けると、ちゅ、と触れるだけの軽い口づけを私の手の甲に落とす。
その行為はこういう場では決して不自然ではなかったけれども、それが皇帝閣下とあらば話は別だ。
『皇帝、閣下……？』
周りがざわ、と騒いだ気がするのはおそらく気のせいではない。一体どういうつもりなのか。
あのグルッペン総統でさえ息を呑む気配が背中越しにでも分かる。
「貴女も"女性"だが……どうだろう、少しは靡いてくれるかな？」
ただ単にからかっているだけなのか。
だとしたら、真にいただけない事態である。
私の手を握ったままニヤリと口角を上げる皇帝に、私は一つ息を吐いて心を落ち着けた。
『やっぱり、女性の扱いがお上手なんですね。驚いてしまいましたわ、私にこのような挨拶を施してくださるなんて、世の中にはいろんな男性がいるのですね』
「そんな謙遜せずとも、貴女は十分素晴らしい女性だと思うが？」
『まぁ、本当にお上手。ですが皇帝、それと同じように、女性にもいろいろな女性がいるものですよ』
「ん？」
皇帝が小首を傾げたのを見計らって、私はすっと手を引き抜いた。
『それでは、失礼いたします。――また、ご縁があれば』
「……あぁ、"いろんな女性"ね。そのようだ」
そのまますかさず二、三歩身を退いた私に、皇帝は肩を竦めながらもそれ以上は深追いしてこなかった。
もう一度別れの挨拶として私たちは会釈を残し、皇帝閣下の元から身を離れさせる。
彼は少しの間私たちを見送っていたけれども、すぐに他の列席者によって取り囲まれていた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 736人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「実況者」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
海豹(プロフ) - 300評目の評価失礼します。とても素敵な作品でした。某ウイルスでお忙しいところ恐れ入りますが気が向いたら更新して下さると幸いです。完結まで楽しみに読ませていただきます。 (2020年10月10日 9時) (
レス) id: e5ff0151d6 (このIDを非表示/違反報告)
もも - 初めまして。とても素敵な作品だと思い、一気に読んでしまいました。随分と長らく更新されておられない様ですが、作者様の気が向きましたらぜひとも続きを読まさせていただきたく思います。年末が近づき一層冷えてまいりますが作者様のご健康をお祈りしております。 (2018年11月20日 1時) (レス) id: 6314553ab0 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - 美桜さん» コメントありがとうございます。白手袋カッコいいですよね！楽しんで読んでいただけるようでこちらも嬉しいです。応援ありがとうございます！今後もよろしくお願いします。 (2017年8月19日 18時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
美桜 - グルさんが白手袋を手に付けるときや、あわよくば歯で噛んで外すときを考えると身悶えてしまいます俺得すぎぃ！そんなことを考えながら読んでました(笑)とっても面白かったです！夢主ちゃんのこれからの展開が楽しみです。更新頑張って下さい！応援してます(^^) (2017年8月7日 21時) (レス) id: 7a0b0fb690 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - 井戸らさん» コメントありがとうございます。続編来ました。更新を待って頂けていたようで…恐縮です。これからものんびりとお付き合いくださればと思います！ (2017年7月24日 22時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：江之子
| 作成日時：2017年7月5日 21時
