▼ ページ46
.
『愛読書の、新刊……ですか』
「そう。嫌かい？」
『い、嫌など、そういう訳ではなく……』
「じゃあ行ってくれるね」
わざわざ私に頼むあたり複雑な理由があるのかと思えば、どうやらそうでもないらしい。
完全に仕事とは無関係な、趣味の範囲にある目当てのものに、私は疑問ばかりを浮かべていた。
面倒だとか、行きたくない、とかではないのだ。
ただ、開発部の部下であったり、もしくは気の知れた幹部の誰かだったりではなく、私だったのは何故か。
もちろん、私が使用人であることを鑑みれば、当然といえば当然なのだけど。
「それじゃ、早速着替えて行ってきてもらえるかな」
『……はい、かしこまりました』
頭の中のはてなが拭えずも、そう急かされては渋る理由もない。
本のタイトルを確認し、忘れないよう頭で反芻しながら自室へと下がろうとすると。
「あぁ、そうそう。忘れてた」
何かを思い出したように机をポンと叩いたエーミール様。振り返れば、白い封筒を私に差し出す彼が見えた。
今度は何用だろうか、と素直に受け取ろうと手を伸ばす。
「君の、今までのお給料」
『……』
手が止まった。
するすると引っ込もうとする手を追いかけるように、彼はそれをさらに押し付ける。
『……保護して頂いている身で、受け取れませんとお断りした筈ですが』
「立場など関係ない。これは君の日々の仕事に対する、正当な評価だ」
『……』
このやり取りは以前もやった。あのときは結局、エーミール様の方が折れてくれたのだが。
今度ばかりは折れないぞ、とでもいわんばかりの笑顔が私を追い立てる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 389人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜風−yorukaze−(プロフ) - とても面白くて、サクサク読めます！これからも頑張ってください！ (2020年4月26日 17時) (
レス) id: 58cfefca5b (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - wlthzさん» コメント、ご意見ありがとうございます。一言についてですが、このスタンスをとれるのも紙媒体の小説にはないサイトの魅力だと考えていますし、これを気に入ってくださる方も居るので、今後は思いついたときに挿入するスタイルに変更しようと思います。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
wlthz(プロフ) - コメント失礼します。１話終わるごとに挿入される一言で興が削がれます。物語自体は面白く読ませて頂いているので、そこだけが少し不満です。 (2017年7月24日 19時) (レス) id: 45eb196b6e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：江之子
| 作成日時：2017年5月9日 0時
