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満足した私は、次の仕事場へ向かう。
次は、第一食堂。この国の幹部たちが使う食堂の清掃である。
「A」
そのとき、聞き慣れた声が私を呼び止めた。
「ちょっと、いいかな」
そこに居たのは、栗色の髪を揺らした女性だった。
今は軽装であるが、紛れもない軍服を纏った彼女は、この国の数少ない女性兵士の一人だ。
『……何かご用でしょうか』
私は一礼した後、尋ねた。
「明日のことで」
彼女はこそりと、小さな声で言った。
そして廊下の角を曲がった周りから見えにくい場所へ移動する。私も何も言わずそれに倣った。
背の高い彼女は、私を見下ろして言った。
「明日、私も暇を頂けたのです」
『……ここでは、私はただの使用人です』
「……。明日、暇を頂きましたので、城下へ出掛けましょう」
『ユリア様』
「私にとって、貴女は貴女です。そこに変わりなどありません」
『……ユリア』
変なところで強情な彼女。
私は溜め息をついて、女性兵士――ユリアに言った。
『融通の利かない人ね、相変わらず』
「何とでも。それで――」
『ありがとう、私の休みに合わせてくれたんでしょう』
「……」
『楽しみにしてるわ。朝一番に、裏門を出たところで待っているから』
「かしこまりました」
私の言葉に、ユリアは頬を緩めた。
用件は終わったのか、では、と頭を下げて早足で行ってしまった。後に残された私は、その背中を見送りながら再び溜め息を吐くのだった。
彼女はユリア。
この国の護衛隊に所属している、れっきとした兵士だ。
そしてお察しの通り、"私"を知っている人。それも、ここにいる誰よりも。
紛れもない、私をここに送り込んだ張本人である父が、私につけた唯一の護衛である。
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夜風−yorukaze−(プロフ) - とても面白くて、サクサク読めます!これからも頑張ってください! (2020年4月26日 17時) (レス) id: 58cfefca5b (このIDを非表示/違反報告)
江之子(えのこ)(プロフ) - wlthzさん» コメント、ご意見ありがとうございます。一言についてですが、このスタンスをとれるのも紙媒体の小説にはないサイトの魅力だと考えていますし、これを気に入ってくださる方も居るので、今後は思いついたときに挿入するスタイルに変更しようと思います。 (2017年7月24日 22時) (レス) id: 7dbb78881f (このIDを非表示/違反報告)
wlthz(プロフ) - コメント失礼します。1話終わるごとに挿入される一言で興が削がれます。物語自体は面白く読ませて頂いているので、そこだけが少し不満です。 (2017年7月24日 19時) (レス) id: 45eb196b6e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:江之子 | 作成日時:2017年5月9日 0時