『なまえのないむら』 ページ9
既にスバルが来てから四日目の夕方に差しかかろうとしていた。
Aは今日もまた、スバルの部屋に訪れる。
「や、来たよ」
「ああ、毎日毎日悪いな」
スバルの手には赤い表紙の本が開かれている。
本文のほとんどがイ文字で書かれた、子供向けの童話集。いつかの世界で文字を教わっていた時、目標にしていたものだ。
「ついさっき、やっと読み終わったところだ。この世界の常識とか価値観の違いが見れて、なかなか面白かった」
「へえ。なにか印象に残ったお話とか、ある？」
「そうだな、やっぱ真ん中ら辺にあったドラゴンの話と、巻末の魔女の話。あと…名前のない村の話もなかなか面白かった。ドラゴンとか魔女と違って、名前のない村は伝説的な感じだったけど、妙にリアリティがあったし」
ぺらぺらとページをめくりながら、スバルは答える。
一日目に取り乱した時から、精神状態はかなり回復したと言えるだろう。こうして普通に会話できる現状に、Aはほっと息をつく。
それが、自身の心を守るため、あらゆる物事から目を逸らしているだけの現実逃避であると、Aは気づかない。
「そうだね。龍のお話はそのまま親竜王国ボルニカの名前の由来になったお話だし…名前のない村も、昔実際に存在していたって話だし」
「へえ。『天を地を意のままに操る、魔法使いだけの村。誰もがその力を求めるが、彼らの行方を知る術はない』。いいね、ロマンがあるぜ。誰も知らないなら、何で童話になんてなってんだって話ではあるけど」
本文の一部を読み上げながら、目を輝かせるスバル。Aも、一魔法使いとしてこの話は無視できないものの一つだ。
「あとは、この魔女の話だけど…」
「ごめん、その話はしたくない」
先程とは一転、スバルの言葉を遮って明確な拒否の言葉を口にする。
急な事に驚いた顔をするスバルに、Aは補足する。
「ごめん、でもそれは、魔女の話だけは駄目。ただ、ただ、怖い」
言葉のないスバルに「今日はもう行くね」と一言だけ残し、静かに部屋を出る。
音もなく閉まった扉を見つめながら、残されたスバルは、
「…どうしたってんだよ」
ぽつりと呟く事しかできなかった。
＊
こわいまじょ、おそろしいまじょ。そのなまえをよぶことすらおそろしい。だれもがかのじょをこうよんだ。『しっとのまじょ』と。
ー童話『しっとのまじょ』から抜粋ー
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みかんじゅ〜す(プロフ) - とても面白かったです！！完結となっていますが更新をなさらないと言うことですか？続きが楽しみなので更新されるかされないかだけ教えていただけませんか？ (2021年12月28日 20時) (
レス) id: 30ce22080f (このIDを非表示/違反報告)
わた。 - 更新はもうされませんか…？泣 ずっと待ってます。 (2020年9月22日 21時) (レス) id: 79fafdb344 (このIDを非表示/違反報告)
なな - めちゃ面白いです！見るの止まらなくて一気に読んじゃいました笑更新楽しみにしてます！ (2018年12月28日 23時) (レス) id: 55efb554d6 (このIDを非表示/違反報告)
団子 - はじめまして！読ませていただきました。率直にとても好きな作品です！特にスバルと夢主の関係がすごく好きです。挿絵の方も素敵で見させてもらっています。これからもささやかながら応援してます！ (2018年8月31日 22時) (レス) id: 655a142b18 (このIDを非表示/違反報告)
夏みかん(プロフ) - 美緒さん» コメントありがとうございます！レムとの戦闘は、双方ともに相手に怪我させないように配慮してたのであまり参考になりません。近接戦となれば、本気を出してロズワールといい勝負ができるかどうか…。まあまあ強い方ではありますが、対人はあまり得意ではありません。 (2018年3月25日 2時) (レス) id: a6bccb531e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夏みかん | 作成日時：2017年8月13日 23時
