エンマ大王のヨメ vol.9【妖怪ウォッチ】

222.強さと優しさと ページ18

「先程申し上げた通り、あの小瓶から女郎蜘蛛の妖気をわずかながら感じた者もおりました。ですがこれでは確証とはいきません。もし犯人が違っていたら無実の者を疑ったとして大問題となる事必至です。」

つらつらと正論を述べるぬらりにオレは再び反論しようとしたが、ぬらりの一瞥により仕方なく溜飲を下ろした。

「そんじゃどうすんだよ…。」

ブスッとしたまま呟くとぬらりは淡々とした口調で話し出す。

「関係各所に調査を依頼してきました。とりあえずはその報告待ちでしょうね。」

「そんな悠長な事いってられっかよ！このままAが泡と消えたりしたらどうすんだ！――いえ、どうしましょうかねぇ…。」

声を荒げたオレはぬらりにギロリと睨まれ、スゴスゴと首を竦める。

ぬらりは厳しい目をオレに向けると再び淡々と話し始めた。

「今出来うる最善の対策はもう既にうってあります。今は静かに報告を待つのみでしょう。」

「……。」

納得のいかないオレに対し威圧感でねじ伏せるぬらりに、オレは仕方なく口を噤んだ。

オレを敵対視している奴らは日に日にその勢力を増している。

その組織が最近オレ達に直接攻撃を仕掛けてきた事はまだ一部の者しか知らないが、世間ではいろいろと騒がれていると聞く。

滅窮芒(めっきゅうぼう)――その組織の中心的人物である餓侾(がこう)は生まれながらにしてその巨大な力を持ち、その力によって多くの者を従えてきた。

鬼一族が力に固執していたのも、この餓侾(がこう)に対抗する為の措置だったに違いない。

だからと言って力で全てをねじ伏せてもいいのだろうか。

――『強さこそ正義』

かつてそう語っていた鬼一族の温羅大将の言葉を思い出す。

強くなければ大切なものを何も守れない。

しかし強くなればなる程、その先にあるものはなんなのだろうか。

そう考えながらオレはふとぬらりの姿に目が留まる。

今やオレに次いでこの妖魔界の実力者でもあるぬらりは、何故オレなんかにつき従っているのだろうか。

ーーー
温羅大将の言葉については『エンマ大王の恋人』vol.12、13に描かれています。
ご参考までに。

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