消せない傷 ページ48
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「ただいま……」
静かに帰宅する音がして、玄関まで出迎える。
「紫耀、また傷 増えてる」
痛々しく血が滲んだ口をそっとなぞる。
いつからやろう...
紫耀が こうして傷を抱えて帰ってくるようになったのは...
これもすべて俺のせい。
「......そんな顔、しないで」
そんな顔って...
今にも泣きそうな顔してんのは紫耀やん...
「...ごめん、廉にそんな顔させてんのは...俺だよな...」
しっかりとした体格には似つかわしくないほど、儚くなってしまった体をそっと包み込む。
「俺は 紫耀から離れへんから。俺には、紫耀だけやから。」
やから、もうやめて...
そのひと言が、言葉にできない。
言ってしまえば、紫耀が消えてしまいそうで。
「...俺の視線の中に廉がいるだけで 呼吸ができる。それだけで十分だった。」
ゆっくりと話す紫耀は、微かに震えていた。
「でも......ちっぽけだから...」
「ちっぽけな俺だから...いろんなものを傷つける.........ほんとは、何も傷つけないくらい強くありたいのに......」
「......しょお......」
今にも儚く散ってしまいそうなほどに脆い紫耀。そんな紫耀に、なんて言葉をかけるのが正解なのか分からなくて......
ただ、消えてしまわないように
抱きしめる腕に力を込めることしかできなかった......
翌日、帰宅した部屋は真っ暗だった。
遠くの方でなるサイレンの音。
いつもなら気にもならない その音が、妙に大きく鮮明に聞こえた。
あの日から いくつもの月日が流れた。
その間、紫耀が家に帰ってくることはなかった。
決して繋がらない電話を何度も繰り返していたが、最近になって 漸く諦めることができた。
紫耀をこの腕で抱きしめることができた あの日にもう一度戻りたい。
あの時 何も言えなかった自分。
今度こそ、震える紫耀をこの手で救い出す。
だから、お願いします。
俺に、紫耀を返して……
そんなこと叶うはずがないってわかってる。
いくら後悔しても もう戻れない。
叶わない願いを胸に秘めて
塞がらない傷口を抱き締めながら
今日も歩き出す。
見上げれば、憎らしいほど鮮明な青い空。
紫耀もどこかで今、同じ空を見ていますか
fin
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作者名:ゆうき | 作成日時:2019年10月8日 1時