アリアドネの糸 (ページ4)

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nkl ページ4

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もう、疲れてしまった。

張り詰めたような空気、人の熱気とステージの照明の熱。全てを飲み込む観客の目、目、目。

今では全てが苦痛なそれらは、初めのうちは大好きで、熱狂していたもの。
それらがひとつひとつ苦痛になっていくその感覚も、また苦痛だった。

苦痛なものから少し目を背けようとすれば、それを軽蔑するように「なんだ、お前の舞台への愛なんてその程度だったのか」と冷ややかに語りかけてくるその目も私に耐え難い痛みを与え、逃げる気力さえ奪われてしまう。そして再び、あんぐりと大きな口を開けて待ち構える苦痛のもとへと引きずり出されるのだ。

暑い光と視線の濁流のもと、必死に苦痛と戦う5分間が終われば、上がりきった呼吸と緊張しきった体を休めるために人気のない階段へとしゃがみこむ。
「ねえ、そこの。」
しばらくすると、背後から男子大学生にしては高い声が聞こえた。

あぁ、中野か。
しかし、中野なんかが私に何の用があるのか到底思いつかない。
私は人気も実力もひとつも無い、ただの冴えない学生芸人。一方中野は学生の賞レースでも抜群の成績を残し、将来を期待された言わば次世代スター、希望の星である。
そんなやつがなんで私にわざわざ声をかけに来るんだ。なんだ？煽りにでも来たのか？

「……なに」
未だ整わない息もそのままに呼吸の隙間でそう答えた。
「さっきやってたの、見たよ。」
「…そりゃどうも。で、なにか？」
頼むから放っておいてくれないか。そんな気持ちを込めて返事をする。

「なんで、続けてるの？」
核心をついた質問が私の体を貫く。
「え？なんでって、なんでよ。」
「だってA、舞台の上で全く笑わないし。全然楽しくなさそうだから。」

少し考えて、どうせ将来を期待されたこの人とこの先深く関わることなどないんだと、そう思った途端にこの人になら色々話してもいいんじゃないかと思った。
既にはち切れそうだった心の紐は簡単に解けてしまう。

「もう、疲れた。無い才能をひたすら追い求めるのも、簡単に才能のせいにする自分を見るのも。でも今更逃げる勇気も思い切りの良さもなくて。ただ…ただ、それだけ。」
しばしの沈黙が空間を支配する。
やがて彼が口を開く。
「疲れてるんなら、やめれば？」
彼の言葉は、私にまた深く突き刺さる。

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