演技29 ページ29
夏油「じゃあ、また」
家入「また来る」
「はい」
色々と話して数十分、先輩方は席を立ちドアの方へ向かった。その様子を眺めていると、不意に夏油先輩が振り返る。
夏油「悟が来たら、追い出さないでくれないかい?」
え?と困惑する私に軽く微笑むと、彼は「頼むよ」と言って去って行った。どういうことだろうかと思っていると、
五条「……よお」
五条悟がやって来た。その顔は彼らと同じように思いつめた表情を浮かべていて、後悔してくれているようで少し安堵する。それじゃあ、あの時姉様のことを言った意味がなくなってしまうから。
“…ごめんね”
その時、再び姉様の言葉と表情が思い出される。…どうして今思い浮かんだのだろうか。もう嫌よ、こんな悲しい表情をした姉様を見たくはない。
五条「…すまねぇ」
「え」
五条悟が気遣うような表情で謝ってきたことに、私は二重の意味で驚かされる。きっと私が険しい表情をしていたからだろう。にしてもこんな表情ができたとは。
「いえ、私は演技をしていましたから…」
五条「それもあっけど、違げぇよ。…掠奈についてだ」
五条悟の口から出てきた言葉に、私は一瞬フリーズする。が、すぐに意識を戻し、彼を少しばかり睨んだ。
「…姉の名前を呼ばないでください」
五条「別にいいだろ。俺の勝手だ」
なんとも清々しい俺様っぷりだろうか。イラッとくる。そう思っていると、五条悟は再び顔を曇らして、俯くとポツリと呟いた。
「掠奈は俺のせいで、死んだんだろ…?」
そう言った五条悟の唇は震えているように見えた。信じられないのか、信じたくないのか、それとも後悔しているのか。
「はい、そうです」
そんな五条悟に、私ははっきりと告げた。情けなんてかけるつもりなどない。こいつは姉様を罵倒し、殺したも同然なのだから。すると、彼は「…本当に掠奈は、死んじまったんだな」と呟くと、伏せた顔を上げた。
五条「俺…お前のこと掠奈から聞いてたんだよ」
「…ハッ、姉様からですか?」
五条「お前のこと、一番大切な妹だっつってた」
__その言葉に確信はない、信じられない。
でも、
「…そうですか」
そう言う五条悟の顔は懐かしげで、姉様からその言葉を伝えられているようで。
何も言えなくなる。
五条「……じゃあな」
少しして、五条悟は俯く私に柄にもなく静かに言い、保健室を去った。
あいつは姉様を殺した相手の筈なのに。
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AO777 - おとひびさん» 爆笑していただけて何よりです〜!いい感じにつながっているか本当に不安だったのですが、そう言っていただけてホッとしました。ありがとうございます! (12月17日 12時) (レス) id: e34a889bc1 (このIDを非表示/違反報告)
おとひび(プロフ) - クマのぬいぐるみ爆笑ですwww続きがあるとは思わなかったです、!いい感じに繋がってて楽しみです✨頑張ってください! (12月14日 21時) (レス) @page31 id: 72762186eb (このIDを非表示/違反報告)
AO777 - ぷりんさん» 毎度毎度本当にありがとうございます〜!神作、と今後も言っていただけるよう精進して参ります!頑張ります! (12月13日 21時) (レス) id: c3c7964942 (このIDを非表示/違反報告)
ぷりん - 本当に神作ですね!!更新頑張ってください! (12月12日 18時) (レス) id: 43dfb5bec0 (このIDを非表示/違反報告)
AO777 - なつきさん» こちらこそ嬉しいコメントをありがとうございます!五条さんの雰囲気づくりは大変で、手こずっていたのでそう言っていただけて安心いたしました。できる限り更新頑張ります! (12月9日 12時) (レス) id: c3c7964942 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:AO777 | 作成日時:2023年9月29日 18時