〇36__たかが送迎、されど送迎 ページ36
「どうする?待ってる?」
小さくなっていく背中を見つめていたヨンジュンが振り返った。
「ううん、先に帰ろ」
待ってあげるという親切心が欠落しているわけじゃない。
ただ、テヒョン君は"先に帰ってと言ったじゃないですか"と呆れる気がしたし、待っててほしいなら素直にそう言うだろうと思った。
「じゃあ」と歩き出したヨンジュンに合わせて歩みを進めながら、テヒョン君の言葉を頭の中で反芻する。
"これで最後ですから"
テヒョン君は確かにそう言ったけれど、何が最後で、その最後を迎えたらどうなるのか。
何一つ見当がつかない。
「さっきの何?『最後』って」
同様にして言葉の意味が気になっていたらしいヨンジュンに尋ねられ、「わかんない」と頼りなく答えた。
「そっか、あいつはずっと難しいな」
天を仰いで頭の後ろで腕を組んだヨンジュンがそのまま大きく伸びをした。
私もそう思った。
テヒョン君のことを初めて難しいと感じた。
何か難題を突き付けられている気がして、釈然としない。
「Aの家まで、ここからどれくらい歩くの?」
ちらりとこちらを見たヨンジュンが肩の鞄を掛け直す。
指定鞄がこんなにも様になる生徒は後にも先にもヨンジュンだけだ、きっと。
「10分もかからないよ」
「10分」と復唱して少し考え込んだヨンジュンは、「送る」ただ一言ぽつりとそう言った。
「えっ?」
聞こえなかったわけじゃない、そう聞こえた自分の耳がまず信じられなかったのだ。
「家まで送るよ」
バチッと視線が交差して、逸らせなくなる。
ヨンジュンがその結論に至った事実に舞い上がって、改めてその天才的な顔の作りに惹き込まれて、五感が忙しい。
たかが送迎、されど送迎。
「いや、ほら!夜道は危険だし」
何も言わない私に不安を抱いたのだろうか。
目を泳がせたヨンジュンが「へへ」と笑う。
日が落ちるのはまだまだ先なのに。
そういう言い訳を聞かされると、鼓動が止まらない。
_
171人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
am(プロフ) - ノアさん» ノア様 嬉しいお言葉をありがとうございます。丁度構想を練っている時分にコメント通知を受け取ったので、創作意欲が湧きました♡これからも涙腺を刺激するようなテヒョン君を書けるよう頑張ります⋆⸜ ⚘ ⸝⋆ (2021年10月8日 23時) (レス) @page48 id: ee43218214 (このIDを非表示/違反報告)
ノア(プロフ) - 文章が天才的すぎます!!泣 テヒョンペンなので今泣きながら見てます笑 更新楽しみにしてます!!^^* (2021年10月8日 21時) (レス) @page46 id: f00cf6f10c (このIDを非表示/違反報告)
am(プロフ) - ミミさん» ミミ様 早速のレスポンスありがとうございます!晴天の霹靂と言ったところでしょうか。ヨンジュン、最近黙ってばかりだなぁと心配しながら執筆しております🥲 (2021年9月28日 3時) (レス) id: ee43218214 (このIDを非表示/違反報告)
ミミ(プロフ) - am様、二度目のメッセージを投稿します。今ほど更新された話を読んだところですが、いやぁ、こうきたか!って感じです。主人公ちゃんに気持ちを寄せてしまっています。主人公ちゃんが頭の良さが文章の描写から伝わってきますね。ああ、続きどうなるんだろう。 (2021年9月27日 16時) (レス) id: 877c5b508b (このIDを非表示/違反報告)
am(プロフ) - aaaoooさん» aaaooo様 素敵なお言葉をありがとうございます。伝えたい🐿さんが届いているようで嬉しいです!もっと読みたい、そう思ってもらえる作品を綴っていくのでよろしくお願い致します♡ (2021年9月27日 16時) (レス) id: ee43218214 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:am | 作成日時:2021年8月22日 14時