エンドオブストーリー

〇33__ダメな人ですよね ページ33

「夏休みになったら会えなくなりますね」


テヒョン君は自転車のカゴに私の鞄を放り投げながらポツリと呟いた。
夏休みなんてまだ先なのに。
そして投げるな、人様の持ち物を。


「会えばいいじゃん」

ハンドルに手を掛ける背中に向かって声を掛けると、その動きがぴたりと止まった。


少しの沈黙を経て、「会えるんですか？」テヒョン君はそう言った。


「もちろん、家も近いし。また花火やる？ヨンジュン達誘って」


何なら今度は手持ちではなく打ち上げでもいい。
お祭りだってあるし、機会はいくらでもある。


そんなことを考えていると、「はぁー。」と深い溜め息が聞こえた。


「本当、ダメな人ですよね。Aさんは」


こちらを振り返ったテヒョン君は困り果てた様子だった。
……いや、そんな優しいものじゃない、のだと瞬時に判断した。


「あれ？怒ってる？」


にこやかな表情で「いいえ」と言ったテヒョン君の目は全く笑っていなかった。


「癪に障った？」ともう一度問いかけると、「このタイミングで『癪に障る』という日常使いしない言葉を持ってくるところが癪に障ります」と今度こそは困り果てている様子だった。


「ごめん、さっき授業で出てきたからつい」


自転車を押して正門へ向かうテヒョン君の後を追いかけながら、「それよりも」と形勢を逆転させる。


「唐突にダメな人って貶されたの癪に障りました」


してやったりとテヒョン君を見上げると、「僕このまま帰ってもいいんですよ」とサドルに跨る仕草を見せる。


「あ、それは本当に困る！」


私物ごと鞄が運ばれては困ると急いで前方に回り込んでカゴを押さえた。

進路を塞がれ「嘘ですよ、どいて下さい」と辛辣にあしらったテヒョン君が「あ、お疲れ様です」と突然笑顔で頭を下げたので、その先に目を向ける。

部活を終えたらしいヨンジュンが手を上げていたので、真似して私も手を上げた。


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