20.ズーム ページ21
やましいことなんてないならコソコソしなくたっていいのに。
カフェに入ったあの日から、なんとなく後をつけられている気はした。そう、元彼は何を期待したかは知らないが、私をストーキングしているのである。
警察に通報とか色々考えたけど、そんな被害を受けることはないだろう、私は彼がそこまで度胸のある人間ではないし。
「あー、家でなきゃな」
時計は昨日上沢くんが迎えにきてくれると言ってくれた数字の五分前を指していた。正面のとこね、と言われたのでそのまま玄関を出て階段を降りる。いつも使っている出入り口を開いた瞬間、私は驚きのあまり固まってしまった。
「……A、」
白昼堂々と現れた私のストーカーはこちらにゆっくり近づいてくる。部屋に戻ろう、いやでも部屋に入った方がやばい、混乱する思考をよそに彼はいつのまにか私の目の前にいて、カバンを持っていない方の手を掴まれる。
「やめて、早く帰って、けいさつ、」
「カップルの喧嘩ですって言ったら取り合ってくれないと思うけどな、ねえ、いつ俺とより戻してくれるの?」
「離して、」
「だってさ、俺ら身体の相性良かったじゃん」
稲妻みたいな衝撃と傷が身体を走った。
身体の相性が良い?馬鹿言わないでよ、演技してただけだし、アンタはただの独りよがりで、
言いたいことは山とある。私に恋みたいな邪なものじゃなくて、もっと何か、そんな感情が涙になってしまいそうになった。
「はいそこまで、Aちゃんお迎え来たで」
いつの間にか停まっていた一台の車、そこから現れたのは上沢くんではなく、西川さんだったのだ。
「A、誰こいつ?彼氏?」
「ちが、」
「彼氏です」
「え、A、俺は?」
彼と同様に動揺する私はただ、話を合わせろ、と目で訴えてくる西川さんに頷くしかできない。
「一方的に追いかけ回して、じゃあ出勤するんでこれで」
西川さんはされるがままの私の腕を引っ張って車の方に向かう。そして車の数歩前で足を止め、元彼の方を振り返った。
「あとアンタ、Aにもっとて求められたことないやろ?好きな人をちゃんと愛せないとかかわいそ、」
彼は、ふ、と笑って私を車に押し込む。
頭が真っ白だった。
嘘ついたり下ネタみたいのごめんな?そう言って車を発進させる西川さんに、私はただ死ぬほど赤面して俯くしかない。
ちゃんと愛せないのがかわいそう、その言葉がリフレインしていた。
(愛せない 愛されない 秤にかけて謀)
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Miyu - とても面白かったです!!続きはまだでしょうか!!楽しみに待っています (2018年7月31日 10時) (レス) id: 6001d11beb (このIDを非表示/違反報告)
聖也(プロフ) - おりか様と風宮様とか最強タッグ過ぎてもう泣 とりあえず作中の西川さんが現実味がハンパないですね。文春かよ好き… (2017年11月17日 1時) (レス) id: 34ecd099f6 (このIDを非表示/違反報告)
風宮(プロフ) - あーちゃむ_さん» 嬉しいお言葉恐縮です!ありがとうございます! (2017年11月13日 2時) (レス) id: b612ad788d (このIDを非表示/違反報告)
あーちゃむ_(プロフ) - はじめまして! いつも楽しく読ませていただいてます! こんな西川選手がいたらと思ってた西川選手が出てきて1人で興奮してました笑 なにより言語が豊富、というか、表現が上手、というか…読んでいて描写がすごいわかりやすくて…!更新楽しみです!頑張って下さい!! (2017年11月13日 2時) (レス) id: 84197ee7ff (このIDを非表示/違反報告)
おりか(プロフ) - いーさん» ありがとうございます!頑張ります! (2017年10月27日 21時) (レス) id: f2eb7c3b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おりか&風宮 x他1人 | 作成日時:2017年10月6日 16時