12.勘違い ページ13
電話の相手は誰だったのか。
彼氏?彼氏なのか?気になって廊下に出て話を盗み聞き、なんて思ったけれど電話を終えた小田と廊下でぶつかりそうになって、
「あー、」
トイレの入口横で悶々と考える。考えたところで何も分からないし、本人に聞くことなんてなおさら無理だし、とため息をついた。
かっこ悪いにもほどがある。
「あれ、」
目の前から例の後輩、上沢がやってくる。酔っているのか、心なしか頬が赤い。
「遥輝さん何やってんすか」
「外の空気を吸いに……」
「外の空気って、わざわざトイレの空気吸いに来てるんすか?」
面白いっすね、とヘラヘラ笑う上沢に顔をしかめると、俺の方を少し見てから真面目な顔でこう言った。
「そんな嫌いっすか、小田ちゃんのこと」
よりにもよってコイツに聞かれたか、という感じだ。黙って目線を下にやる。はるきさーん、の声に、別に、とぶっきらぼうに答えた。自分でもドン引きするくらい低い声だ。
「じゃあなんであんなに避けるんすか?」
「……何でやろ」
「遥輝さんに分からないことは俺にはもっと分かりませんって」
眉を下げてそう苦笑している。何て言えばいいのか分からずにいると、上沢は微動だにしない俺を見兼ねたのか、トイレの入口を開けて身体だけ入り、顔をひょこっと覗かせた。
「気が向いたらでいいんで、小田ちゃんに話しかけてやってくださいよ」
上沢はそうやってにこっと笑う。愛嬌のある奴だ。俺も好きな人にあんな風に平常心で可愛く、
いや、可愛かったら気持ち悪くて余計ダメか、良好な関係を築ける程度に振る舞えたらどれだけいいことか。
「いや俺小田に嫌われてるし無理だって」
「え?小田ちゃんが遥輝さんを?それは絶対ないっすよ」
「は?」
上沢はトイレの入口から先程よりもっと身を乗り出してこう続けた。
「いや、小田ちゃん、西川さんに嫌われた、何かしたかなって随分と悩んでたし。だから嫌いじゃないなら誤解解くべきっすよ、」
じゃあ俺は用足してきまーす、と彼はトイレのドアの中に消えた。
小田が、俺を、嫌ってない。
彼女の電話の相手なんてもうどうでもいい。
「まだゼロじゃない……?」
諦めたらそこで試合終了、野球は9回ツーアウトから、まずは絡まった勘違いから解いていくところからだな、と俺は彼女のいる食事会場に戻るのである。
(逆転サヨナラ上等)
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Miyu - とても面白かったです!!続きはまだでしょうか!!楽しみに待っています (2018年7月31日 10時) (レス) id: 6001d11beb (このIDを非表示/違反報告)
聖也(プロフ) - おりか様と風宮様とか最強タッグ過ぎてもう泣 とりあえず作中の西川さんが現実味がハンパないですね。文春かよ好き… (2017年11月17日 1時) (レス) id: 34ecd099f6 (このIDを非表示/違反報告)
風宮(プロフ) - あーちゃむ_さん» 嬉しいお言葉恐縮です!ありがとうございます! (2017年11月13日 2時) (レス) id: b612ad788d (このIDを非表示/違反報告)
あーちゃむ_(プロフ) - はじめまして! いつも楽しく読ませていただいてます! こんな西川選手がいたらと思ってた西川選手が出てきて1人で興奮してました笑 なにより言語が豊富、というか、表現が上手、というか…読んでいて描写がすごいわかりやすくて…!更新楽しみです!頑張って下さい!! (2017年11月13日 2時) (レス) id: 84197ee7ff (このIDを非表示/違反報告)
おりか(プロフ) - いーさん» ありがとうございます!頑張ります! (2017年10月27日 21時) (レス) id: f2eb7c3b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おりか&風宮 x他1人 | 作成日時:2017年10月6日 16時