□Ωの機能不全 / 納棺師 ページ9
オメガバースネタ
□■□■
「カールさん」
「っ、ぁ、はい…何でしょうか…?」
まただ、マスクも関係なく鼻腔を満たす甘い匂い。
脳を揺さぶるそれに目の前に星が散り、一瞬遅れて彼女に返事をした。
「そろそろゲームなので、って、大丈夫ですか?顔が赤いですよ」
「大丈夫、です。大丈夫だから、どうぞお構いなく。先に行ってください」
またやってしまった。言葉の選択を間違えた事に気が付き、ハッとしてAさんの様子を窺う。
少し寂しげに眉が八の字になり、口元はせめてもの思いなのだろう、不器用に弧を描いていた。
違うんだ、とマスクの下で口を開いたところで甘い匂いに小さく声を漏らすだけだった。
「ぁ、ぅ」
「じゃあ、先に行ってます。体調が悪いようでしたら、誰かに代わってもらってくださいね」
彼女が踵を返す。ぶわ、と匂いが強くなる。
あ、待って、ダメ、待ってよ、僕の——————
「待って!」
突然大きな声を出した僕に彼女が驚いて振り返る。僕と違って、表情をころころと変えられるのがAさんの魅力だ。
「違うんです。心配してくれて、ありがとうございます」
パチ、と長い睫毛が不意を突かれたように瞬く。数瞬置いて、言葉の意味を理解できたのか今度は柔らかく微笑むAさん。
いえ、そんな。と謙虚に否定をするAさんのなんと愛らしい事か。
「いつも、言葉を間違えてしまってごめんなさい。でも、本当に感謝してるんです。咄嗟に言葉に出来ない、選べないだけで」
言い訳を並べれば彼女は首を横に振って、気にしなくていいんですよって言ってくれて。
目を合わせるのが恥ずかしくて床に落としてしまった視線をチラリと少しだけ上げれば、笑っているけど、目が僕を映していなくて。
「だって、カールさんは私が嫌いなんですものね」
違う。それこそ、一番の間違いだ。
では。と彼女が背を向ける。
その背を見て、何とも言えない恐怖に襲われる。いかないで、と全身の細胞が彼女を引き留めようと働こうとする。
いかないで、戻ってきて。僕の、運命——————
「カールさん?」
彼女の声にハッと我に返る。
ああいけない。彼女のあまりに強い匂いに、空想に耽って幻を見ていたらしい。
「本当に、大丈夫ですか?やっぱり交代を…」
「……大丈夫。心配ありがとう、やっぱり一緒に行きませんか?」
「っえ、あ、はい!」
パッと表情が輝く。
ああ、はやく、はやく、僕が運命の番だと気付いて。
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yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時