□これにて閉幕 / 血の女王 ページ32
こつ、こつ、こつ。聞き慣れた靴音が耳に届く。
頬杖をつきながら曇天を見上げ、これから雨が降るのだろうと予想し嫌な気分になった。
「マリー様、ここにいたのですね」
「……、A、」
「……そんなに、悲しそうな御顔をしないでください」
あらあら、あなたこそ今にも泣きだしそうな顔をしているわよ。
そう言おうと思ったけれど、なぜか出た言葉は全く違うものだった。
「───私のA。私だけのA。
あなたとは、ずぅっと一緒にいたわね。
前から思っていたのだけれど、私、あなたと結婚した方が幸せになれたと思うの。
嘘じゃないわ。本当よ。生まれ課せられた責務が無かったら、地位も家族も全部棄ててあなたと一緒になっていたもの」
頬の筋肉を無理矢理動かし、不器用に笑顔を浮かべる。ぐっ、と何かを堪える表情をしたAが唇を震わせた。
「……マリー様、私は、」
「いいのよ、あなたは、何もかも背負って、切り捨てられない性格だものね」
「いえ、いいえ、違うんです。マリー様」
「荘園主は曖昧に言っていたけど、今日の夜、ここは消えるわ」
「おやめください」
「ハンターは異形の者。死の概念をねじ曲げて作られた異物よ。きっと荘園と共に消えてしまう」
「お願いです、」
「あなたはハンターにもなれたけど、根本的にはサバイバー。きっと生きれる筈よ」
言いたい事は、それだけ。どうか幸せになって、私の可愛い子。
話は終わりと再び空を見上げれば、バンッとテーブルが叩かれる。びっくりして肩が跳ねてしまった。
「私は、マリー様をお慕いしております」
ああ、その言葉を今まで、どれ程渇望したことか。
「従者としても、人としても、常に貴女様を求めているのです。
貴女が下命するのなら、地面にキスをしましょう。
泥水を啜りましょう。
下賎な者と体を重ねましょう。
嫌いな貴族も没落させましょう。
王宮も国も陛下も、何もかも壊しましょう。
マリー様のためなら何でもやってみせます。その覚悟があります。
どうか、お願いです。私に、御慈悲を」
かつてのどの瞬間よりも貪欲に鋭く光る目が私を貫く。体が、歓喜に震えた。
嬉しい。嬉しいわA!あなたはいつだって私の一番の願いを分かってくれる!
それをさもA自身の願いとして申し出るのだから、愛おしくて堪らない!
ええそうね、Aが慈悲を望むのならば叶えてあげないと。
「───運命を、共に」
「……ありがたき幸せ」
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yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時