□所有者の失敗 / 占い師 ページ30
やけに静かな朝だった。
いつもなら召使の誰かしらが最低限にドアを開けて、朝食の残飯を床に落としていく筈なのに。
私語が禁止されているので隣同士で喋る人はいないものの、皆が視線で「何があった?何が起きている?」とありもしない返答を求めていた。
ふと相棒に呼ばれている気がして、彼女の視界を僕の網膜と繋げる。
まず見えたのはこの屋敷のどこかの窓枠。汚れ一つない窓ガラス越しに見えるのは一人の直立している女性で。見覚えのある彼女は真っ赤に濡れていた。
はっと息を呑む。彼女の足元に転がっているのは、僕の憎むべき所有者で。見るも無残に、何度も、刺されていた。
相棒に他の窓に移動してもらうとそこは廊下で、そこにも召使の死体がごろごろと。ああ、なんてことだ!
視界の共有を止め扉に手をかける。突然の僕の行動に回りの人は驚いたみたいで、でも所有者のしつけが行き届いている彼らは決して声は出さない。
鍵はかけられていない。きっと召使がこのモノはどうせ脱走しないだろうと仕事を怠って施錠しなかったのだろう。つくづくクソな主人にクソな召使だが、好都合だ。
憎たらしい召使の死体を気にも留めず時折足や腕を蹴飛ばしながら辿り着いた、主人の部屋。
躾を忘れてノックもせずに扉を開ければ、広がった先ほど見た通りの光景。
「Aっ!」
「……」
頬にまで血飛沫をつけている彼女が、こちらを向く。僕だと気が付くとへらりと笑って、その笑顔があまりにもいつも通り過ぎて軽く眩暈に襲われた。
「イライだ、おはよ」
「おはよう、じゃない!どうして、何故こんな、いや、怪我は!?」
「殴られちゃったけど、大丈夫だよ」
「なら早く手当てをしないと!」
「大丈夫だって」
よく見れば血飛沫以外にも、頬が赤くなっていた。きっと拳で殴られたのだろう。こんなか弱い彼女に、なんてことを。
何人もの命を奪った鋭利な刃物を僕に渡した彼女は、大丈夫と言いつつも素早く救急箱を持ってきた僕の手当てを大人しく受けてくれる。
「もう、どうしてこんな事をしたんだ」
「だって、イライの事を捨てようとしたから」
「…そのくらい、いいじゃないか。誰かがいなくなるのは僕らの中じゃ日常茶飯事だろう?」
「……イライがいなくなったら、また一人になる」
俯いて黙ってしまうAを見て、そっと抱きしめた。
ああそうだね。いくら同じ部屋に同じ価値のモノがあるとしても。
君にとって僕は、
僕にとって君は、
唯一無二だ。
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yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時