□所有者の番犬 / 傭兵 ページ29
「私の顔に泥を塗りおって!!一族の恥晒しが!!!」
「……」
ああうるさくてくだらない親ですこと。わざわざご主人の部屋まで来て怒鳴るような事かねぇ?
そうは思っていても表に出したらまたご主人諸共怒られてしまうので、そっと死んだ表情を保つ。
暫くするとあの害虫は満足したのか部屋を出て行き、ご主人はふら、とよろめいた。慌てて駆け寄れば体が床に打ち付けられる前に支える事が出来て、ああよかった、彼女が怪我でもしたら大変だと安堵の息を吐く。
「ご主人、疲れたのは分かるけどいきなり倒れるのは止めてくれ」
「ごめんなさい、あの人と話すと気持ち悪くなる……」
「ああ、よく頑張ったな」
「うん……、ねぇ、ベッドに」
「分かった」
そこらへんの同年代の女よりも軽いんじゃねぇかと思うくらい軽い彼女を抱き上げて、俺の故郷では夢のまた夢だったふかふかのベッドに運ぶ。
靴の裏から伝わる毛長の絨毯の感覚は今では慣れたものだが、最初は困惑したものだ。
こんな足元じゃ滑って踏み込むことも出来ないじゃないかと。
「もう寝るのか?」
「うん、元々あの人が来る前にも寝ようって思ってたから……、でも、眠気が飛んじゃったなぁ」
「俺と話してればすぐに眠れるさ」
「そうだね」
憂鬱な溜息を吐いて顔を手で覆うご主人。きっと自分の都合に俺を巻き込んで申し訳ないとでも思っているのだろう。まさか、俺は貴女のモノなんだから気にしなくていいのに。
部屋の明かりを消して暗くすれば、ふぁ、と控えめな欠伸が聞こえてきて。そっとご主人の頭を撫でればその手を取られて、ベッドの中に引き寄せられる。
ただのモノが所有者と同じベッドを使うのは可笑しいが、ご主人達ての希望だから俺が拒否できるわけがない。まぁ、拒否権は用意されてたけど。
「今日はナワーブの仲間のお話が聞きたいな」
「あー、前はどこまで話したっけ?」
「イライさんが、不思議な力で御主人様を危機から救ったところ」
「あれか、あの後にイライだけ褒美を貰ったんだ」
「まあ、良い人なんだね、御主人様は」
「……はは、どうだか。で、その褒美っていうのは、」
布団をかぶって、廊下を見回っている召使たちにノックされるのも面倒なのでヒソヒソ声で話す。そして、いつの間にかご主人は眠っていた。
ご主人の細い首にそっと手をかける。
少し力を籠めればご主人からはいつでも逃げられるのだ。
だから、仲間の元に行くのはもう少しだけゆっくりしてからでいいよな。
1254人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時