□所有者の他界 / 探鉱者 ページ28
所有者はちゃんとした召使いを雇わずに、僕のような消耗品ばかりを買って奉仕をさせる人だった。
その日はたまたま僕が来客当番で、たまたまAさんっていう秘密警察の人が仕事でこの屋敷を訪れただけの、何気ない日だった。
「この国で最近法が変わった事は知ってるか?ふむ、知らなかったと。この法は我ら臣民の生活の安全を保つ為に女王様が作ってくださったのだ。それを知らなかったと。成程、では死ね」
パシュッ、と案外軽い音で僕の所有者は死んだ。胸を真っ赤に濡らして、目を剥いたまま。護衛人は部屋に入ってすぐに撃たれて死んでいる。
ぼーっとして数体の死体を眺めていれば不意に肩を叩かれて、振り向けばAさんが苦笑いをして僕を見ていた。
僕を消耗品じゃなく、ちゃんとした人間として見てくれる目は久方振りで、じぃっとその透き通った瞳に魅入った。
「そんなに死体を見るものじゃないよ。君の名前は?」
「……」
「えぇっと、私の顔に何かついてるかな?」
「ぁ、いえ、僕は、bf7834と」
「ああ違う違う、商品番号じゃなくて本当の名前だよ」
「本当の……」
僕の本当の名前。簡素な識別番号じゃない、親につけられた本当の、僕が僕自身であるという証明。
「ノートン・キャンベル」
「そう。ノートン」
Aさんがそう僕の名前を呼んで微笑むものだから、カッと腹の底が熱くなり思考が溶けていく。
ああ、この人は主の為ならばと僕の所有者を殺した冷酷な忠臣だというのに、どうしてこんなにも神様のように見えてしまうのか。
「ノートン、君はこれからどうしたい?」
「これから…?」
「うん。まぁこんな現場を見られちゃったというか、見せた訳だから選択肢は二つ」
一つ、と黒の手袋に包まれた手で人差し指が立てられる。
「私と一緒に来るか。この場合もまた選択肢があるんだけどね、それはまた後で」
「一緒に行きます」
「返事が早いって。じゃあ二つ目ね、ここで死ぬか」
「一緒に行きます」
「分かった。分かったから距離を詰めないで」
僕はAさんと一緒にいたい。それに、まだ仲間との必ずまた会おうという約束が果たされていないのに。
ずい、と身を乗り出せばAさんは後ずさりつつ、通信機で誰かを連絡を取る。きっと、秘密警察の人だろう。
「――あぁ、早く頼む。ではまた」
「……終わった?」
「うん、じゃあ行こっか。表に迎えが来てる」
差し出された手に、絶対的な希望を見出す事が出来たのは初めてだった。
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yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時