□所有者のいない / 納棺師 ページ27
「こんばんは、イソップ」
「……」
黒に映える金の刺繍が施されたスーツに身を包んでいる女がコンコンコンと強固な檻をノックする。
音に反応して膝に埋めていた顔を上げたイソップと呼ばれた男は、まだ痛む傷に表情を変えることもせずただ女を見上げた。
「今日も売れ残ったね、おめでとう。ここまで売れなかったのは初めてだよ」
「……、発言の許可を頂きたいのですがよろしいでしょうか?」
「ん、勿論いいよぉ。中、入るね」
いつも許可を取らなくていいと言っているのに、前の所有者は随分躾けたんだなぁ。と笑顔の裏で思考する女は慣れた手つきで檻の扉を開けると中にするりと入り込む。
片手には救急箱が握られていて、きっとイソップの傷の手当てをするのだろう。
「ぼ、僕のような傷だらけの商品は、健全で安全な商品売買を謳っているこのお店では一生、売れないと思います。早めに、処分をしたほうが、いいかと思います」
「ふぅん、はいばんざーい」
「っ、う」
ぼそぼそと早口で言い切ったイソップに適当な相槌を打った女は無遠慮に服を脱がせにかかる。イソップは商品の中でも人一倍警戒心が強いもので、それなのに不思議とするすると脱がされた服はぽーいと女の後方に投げられた。
身を固くし息を止めるイソップを数瞬じっと見つめた女は「如何わしい事はしないよ、傷だけ見るだけ、ね」と投降する犯罪者のように両手を上げると、それから救急箱を開けた。
「イソップ、人はどうして人を買うと思う?」
「……汚らわしい私利私欲を満たすため、です」
「うん、それも正解だ。それ以外には?」
「これ、以外…?……えぇと、散財趣味…?」
「それは予想外。ふふ、案外面白い事を言うんだねイソップは。んふ、散財趣味……」
何がツボに入ったのか、肩を揺らして笑う女にイソップは少し白けた目を向ける。それに気が付いた女は驚きつつも、それを表に出さずそれでもこらえきれない笑いは続けた。
初対面の時は目も体も心も死んだも同然だったのに、こうして人間味の増したイソップの未来がとても、楽しみで仕方ない。
まだ前所有者の残滓は垣間見えるものの、こうして新たな表情を見せてくれるなんて。彼は何て素晴らしい、と女は内心満足げだ。
「他に、あるんですか?理由が」
「んっふふ、いや、それはまた……イソップがこの檻を出るときに教えるよ」
その言葉を聞いて、イソップの心に芽吹いたのは果たしてどんな感情なのか。
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yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時