□生前の一幕 / 写真家 ページ23
「A、来てくれ!見せたいものがあるんだ!」
「なぁに?どうしたのジョーイ」
喜々とした様子を隠さずに部屋へ駈け込んで来た、衰えても尚美しい男に女は落ち着いたまま微笑みかけた。
ジョーイと呼ばれた男は女の手を取ると、こっち、と目的の場所へ案内する。まるで少年のような喜びの表情を浮かべる男の横顔に女は問いかけた。
「ジョーイ、突然何?」
「やっと、終わったんだ。君に一番に見てほしい」
着いたのは、男が所有している撮影機が置いてある部屋だった。
部屋の中心にポツンと置かれた撮影機は被写体を今か今かと待っている。女は不思議そうな表情をしながら近付いた。
「撮影機?」
「ああ、ついに完成したんだ!写真の中にモノの魂を保存する撮影機が!」
「たましい……」
霊魂について研究している事は知っていた。それでもその先の何に繋がるかは知らなかった女は、男が何を言っているのか分からなかった。
写真、即ち無機質の中に私の、人の魂を?
嘘でしょう、と言う前に男が語る。その目は狂気的な危うさを孕んでいた。
「ただの写真ではいつか滅んでしまうから意味が無い。だから写真の中に魂を仕舞って、その中の世界が生きる為にはどうしたらかいいのか試行錯誤してきた。それが今日、やっと完成したんだ。
写真の中で生きられるんだよ!肉体が滅びようと、魂は写真の中で生き続ける!」
ねぇ、こんなに素敵な事ってある?撮影機を大切そうに撫でて問い掛けて来た男に、女は無言で撮影機を見詰める。男はくすくすと笑うと別の質問をした。
「この撮影機で君を撮ってあげようか?」
「……嫌だよ」
首を横に振った女の視界に壁に掛けられた一匹の蝶の写真が映り込む。彼の瞳の色をした蝶が羽ばたいているような錯覚を見た。
どうして?と男は問う。愛しいものを見る目にくすぐったくなった女はその目から逃れるように視線を床に落とした。そして、頬を赤くして小さな声で答える。
「だって、魂だけになったらジョーイに触れられなくなるんでしょ?貴方に触れられないなんて、そんなの生きてても意味が無いわ」
ああ、君はそう答えると思った。
男はそっと撮影機に布をかぶせる。彼女に使う日はまだまだ先になりそうだ。
□こうして未来は / リッパー→←□霊媒センシティブ / 占い師
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yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時