【第五人格】愛に溺れんとして【短編集】

□霊媒センシティブ / 占い師 ページ22

諸行無常より

□■□■

『今日はイきてる』
『ザンネン』
『早く同じにナろう』
『イノチを寄こせ』


背中に付き纏う、産毛が逆立つような気持ち悪さを含む声達を振り払う為に大股で廊下を歩く。

私は昔から憑かれ易い体質だった。

誰かに殺されてしまった心残りがある人や、恨み辛みで怨霊となった人や、自ら死を選んでその地に縛られてしまった人。いろんな人が私の背中にしがみ付き再びの生を求めている。

"霊能者"として荘園に招かれた私だが自分自身で霊能者を名乗った覚えはない。

きっと他に丁度いい呼称が無かったのだろう。何の特徴もない私だから、無理やりつけられたに違いない。

重い背中に息苦しさを感じながら食堂の前を通りかかれば中が少し騒がしい事に気が付いた。

何か問題でも起こったのだろうか？むく、と首をもたげた好奇心に従って躊躇する事なく食堂の扉を開ければ、そこには先ほどのゲームに参加していなかったサバイバーのほぼ全員が集まっていて。

ねぇ、と一番近くにいたイライに声をかける。


「あ、お疲れ様。新しいサバイバーさんが来たんだ。前から言われていた納棺師さんだって」
「へぇ、納棺師…」
「それにしても今日は一段と憑かれてるね」


イライがアイカバー越しに私の背後を見やった。

確かに今日は人数が多い気がする。彼らはどうにか人型を保っている靄のような人達だが、こんなに重なって黒くなっているのは珍しい。


「追い払おうか？」
「ううん。イライと離れればすぐに寄ってくるから」
「そう、君も難儀な体質だ」
「同情なら結構。もう行くね」


灰色の髪にマスクをした納棺師を皆の隙間から見た後そっと踵を返すが、呼び止められて仕方なく振り返る。今すぐ横になりたいのに。


「納棺師さんに挨拶は？」
「夕飯の時にでも、気が向いたら」
「分かった、ゆっくり休んで」


そう言って優しく私の髪を梳くものだから、イライはお人好しだね、と呆れ顔で肩を竦めた。

髪を梳くふりをして、彼らを追い払ってくれた。そうやって優しいから心労を溜めて体調を崩すんじゃないか。


食堂の外に出ると、また集う彼らが無い口を開き次々と喋りだす。


『痛い』
『厄介』
『痛いノ？』
『アレはイタくしない』
『また歩きたい』
『お腹すいた』
『歩くのタノシイ？』
『知らない』
『コイツの力を喰えばいい』
『食べ過ぎたらコイツ、シぬ』
『それは嬉しい』
『それは悲しい』


あーーうるさいうるさい。

耳を塞いでも意味はなかった。

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