□drop / リッパー ページ14
目の前で女の人が浅く呼吸をしている。娼婦らしい服は腹部が真っ赤に濡れていて、大通りから差し込む街頭の光で反射するそれはずっと見ていると頭がクラクラしそうだ。
衝撃で始終を傍観する事しか出来なかった私に、隣のジャックが機嫌良く声を掛けた。
「さぁA、ナイフを持って」
「ぁ……、ゃ、や、いやだ」
手のひらにナイフが置かれるが、それを握れずにカランと地面に落とす。仕方なさそうに溜息を吐いたジャックはそれを拾い上げると、今度は強制的に握らせ、女の人へと向けさせる。
秘密話をするみたいに、耳元で囁かれた。
「このままじゃ彼女は死ねない、痛みを何日も味わうことになるんです。だから、さぁ、彼女を救ってあげて」
「救うのは簡単。このナイフを心臓に突き刺すか、喉を切ればいい」
「早くしないと、彼女が苦しむ時間を増やしてしまいますよ」
「Aはそんな意地悪な子じゃないでしょう?」
ぐるぐる、ぐるぐる、彼女の痛み、苦しみを考えて、手が震える。
ああ可哀そうな人。ジャックの目に入っただけなのに、こんな思いをするなんて。
それとは別に、女の人の命を奪うという行為に恐怖を覚え、涙をこぼす。
あ、あ、と意味のない母音が口から洩れる。ジャックは見守るだけだ。
ぎゅ、とナイフを握る手に力を籠める、と同時に、女の人がこちらに手を伸ばした。
「た、す……て、いや……しに、たくな…」
ひゅ、と息を呑む。彼女は生きたがっているのだ。
膝を付いて、ナイフをどこかへ落とす。伸ばされた手を握ろうとしたところで、私の手はジャックに取られ、彼の反対の手は女の人の喉を切り裂いた。
ぼとりと地に落ちる彼女の手。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
「全く、今回も駄目か…、いつまで私を待たせるんですか」
「もう、や…、ジャック、私、誰も殺したくない…」
「駄目ですよ。私と同じところまで堕ちてもらわないと、Aはすぐにどこかへ行ってしまうから」
手を引かれるようにして立ち、ワルツを踊るかのようにくるりと回る。
私が見上げれば、ジャックはにこりと笑う。まるで人を殺した後とは思えなかった。
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yuki maki(プロフ) - Twitterフォロー失礼しまーす (2022年5月1日 17時) (レス) id: 6c4d3fd2ca (このIDを非表示/違反報告)
名無してゃん - 人外シリーズ待ってましたっ!ほんとに楽しみにしてたので嬉しいです(´˘`*)ありがとうございます(´˘`*) (2020年12月23日 18時) (レス) id: 256c8decd9 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - ハルさん» 閲覧、コメントありがとうございます。私の他にも同じ感性(?)性癖(?)の人がいて嬉しいです(´ω`*)尊いとまで言って頂けて…!嬉しみの極みでございます…!こちらこそありがとうございます…! (2020年2月18日 1時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
ハル - 人外シリーズ好きです。尊いです。有難う御座います。 (2020年2月12日 13時) (レス) id: ca92ab3e55 (このIDを非表示/違反報告)
Lonely(プロフ) - 黒いロシア帽さん» 閲覧、コメントありがとうございます〜。つまり禿げですね(((そう言ってもらえてとっても嬉しいです!ありがとうございます、頑張ります! (2020年2月3日 15時) (レス) id: a8cecf9880 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊歩 x他1人 | 作成日時:2019年11月17日 22時