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ううん…でも、やっぱりダメだ。
引かれた腕を半ば強引に離し、その場に立ち止まる。
「A?」
俯いたまま口を開く。
「やっぱり私…」
どうした?という感じで、健人くんが覗き込んでくる。
「電車で帰るよ!」
顔を上げて目一杯明るく。健人くんが気にならないように。
「その方が酔いもいい感じに冷めそうだし!」
「え…?」
「健人くん、今日は本当にありがとう!車の中にいる2人にもありがとうって伝えてください!」
「え?ちょっと待って!」
わざと時計を見る。
「あ、まずい!終電近い!健人くん!2人も待ってるから、行ってあげて!ほらほら!」
健人くんの背中を押す。
「じゃあね!寒いから風邪ひかないようにね!」
健人くんの返事は聞かず、手を振って、小走りに赤坂見附の駅の方に進んだ。
そうだ、勘違いしたらいけない。
夢みたいな時間は、あのお店の中だけで充分なんだ。こんな短時間で健人くんに惹かれている自分がいるのに、これ以上時間を共にしたら、彼に完全に心を持っていかれてしまう。
少し走ったところで、立ち止まる。
「やっぱり電車は面倒だな。タクシーで帰ろうかな。」
タクシーを捕まえるため、大きな通りを歩く。
まだふわふわしてる。
胸に手を当てて、心臓の音を確かめる。
「くそー…簡単になんて落ちないぞ。」
「どこに落ちないの?」
後ろからまさかの声…
嘘でしょ…
恐る恐る振り返る。
「健人くん…」
「駅、こっちから行くの?」
質問には答えず、こちらから質問を投げかける。
「健人くん、車は…?」
「Aが逃げちゃうから、車は2人だけ乗せて帰ってもらった。」
「うそ…」
ごめんなさい…と聞こえるか聞こえないかの声で呟く。
「送ってく。電車乗ろ?」
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作者名:こうこ | 作成日時:2019年12月26日 23時