あけまして、【番外編】 ページ32
俺から見えるのは、爆豪の背中とその可愛らしい女の子の朗らかな笑顔。
リップで潤う唇に、マネキュアで綺麗な指先が見える。
微かに揺れる爆豪の背中。
絶対に気づかれない席にいる俺。まぁ、なんだ。
爆豪は男子高校生だぞ。若いってのは、こういうことだ。
誰に対しても行動力があって、自分の好きに動ける年頃なのだ。
だから、爆豪が俺じゃない誰かと楽しい年末を過ごしていたとしても変じゃない。
むしろ、普通だ。
俺には、俺の瞳には、お似合いのカップルが来年の予定を立ててるようにしか見えていない。
『ははっ、…うん、大丈夫だ。これくらい、……いつものこと、だ…。』
飲み干した珈琲カップに透明の液体が落ちた。
涙だ。個性の涙ではなく、俺自身の涙。
胸が締め付けられるように痛い。
クリスマスの、あの可愛いくて愛おしい爆豪の表情を思い出す。泣ける。
年明ける前に失恋とか、本当に勘弁してほしい。
毎日付けている爆豪からもらったコンタクトレンズ、来年付けるの辛いな。
付けるけれども。
年明け最初に教室で爆豪の顔見たら泣くかも。
いや、意地でも堪えるけれど。
ジジイよ、大罪人よ、イイ様だな。俺は自己嫌悪に陥りながら、リュックを背負った。
代金をレジに置いて、フラフラとカフェを後にした。
涙が止まらなくて、レジの店員さんに心配された。
その涙でグチャグチャになった目を擦って、少し腫れた。
電車に乗り込んで、快速で帰る。
帰りの電車の中で、ふとこんなことを思った。
また俺は一人で年を越すのか、と。
気の遠くなるような数の人生をこなしてきて、今までたった1度も誰かと年を越したことがない。
笑える。本当にどうしようもない。
たかが、それだけのことなのに。たかが、一人で0時に聞こえる鐘の音を聞くだけなのに。
どうしてこんなに涙が止まらないんだ。
「…オイ、…泣くな。」
電車に揺られていると、正面から声を掛けられた。
低くて、どこか安心する声だった。
俺は顔を上げなかった。どうでもよかった。
ジジイが若者に執心するからこうなるんだ。俺はやっぱり、人を愛することなどできないのだ。
人を手に掛けたヤツが人を愛することなどできるはずがないのだ。ましてや、愛されようだなんで虫が良すぎる話だ。
「……誤解だ。」
『…っ！？』
俺が泣いている理由を知っているとばかりの口ぶりだったので、咄嗟に顔を上げて声の発信源を見た。
息を切らした爆豪がいた。
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作者名：メチレンブルー | 作成日時：2016年9月27日 19時
