xx_06 ページ10
寒空の下、はいた息は白くなって宙に溶ける。
「さむっ」
あまりの寒さに、杖の持ち手の部分をぎゅっと握りしめて呟いた。
隣を歩いていた加賀美さんが苦笑する。
「今日の最高気温2度ですって」
「うわあ、早くどこかに入りましょう」
駅に着けば、付近にファミレスがあったからお昼はそこで済ませてもいいかもしれない。
自分に歩く速度を合わせてくれてる加賀美さんに申し訳なくなって、歩くスピードを上げる。
といっても、もともと足が悪いため、あまり早くは歩けないが。
結局、特に食べたいものがお互いになかったためファミレスに入った。
飲み物と軽食を注文して、一息つく。
「今日、お休みなのに付き合ってくれてありがとうございました」
改めて、休日なのにわたしの誘いを快諾してくれた加賀美さんにお礼を言う。
「ああ、全然!私でよかったらいつでも呼んでくれれば行きますよ。それより、写真はもう大丈夫そうですか?」
「うん、多すぎるくらい撮ったからもう満足です」
わたしたちは今日、天橋町第三中学校に訪れていた。
というのも、もうすぐ取り壊されてしまう校舎を直接見て、カメラに収めておくためだ。
わたしは、どうしてもあの校舎に未練や、言葉で言い表せない何かを感じてしまうから。
後悔がないように、取り壊されるまではまた何度も来るつもり。
事情を知らないまゆゆを誘うことは難しいかもしれないけど。
「よかった。本当は中にも入れればよかったんですけどね」
「残念だけど、仕方ないですよね。もうすぐ取り壊しだから……」
「本当に取り壊されちゃうのかなあ」
小さくついたため息を加賀美さんは見逃さなかった。
「寂しいですか?」
「寂しいっていうか、複雑な気持ちです。なくなっちゃえっていう気持ちと、消えちゃうんだなあっていう気持ちが、どっちもあるから」
空になったプレートをぼうっとながめながら、まとまらない思いを口にした。
加賀美さんは優しい顔で頷いてくれた。
「そういえば、私達が初めて会ったのも冬じゃありませんでしたか?」
「そうですよ!ふふ、すごく懐かしいです」
今でもあの日は鮮明に思い出せる。
五年前の二月の雪の日。
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作者名:芳野 | 作成日時:2023年3月31日 23時