xx＿21 ページ28
飛び降りる前に靴を並べる理由は諸説ある。
例えば、「これは事故ではなく飛び降りです」っていうことをはっきり示すためだとか、遺書が飛ばされないように重石代わりにするためだとか実用的な理由だったり。
はたまた、誰かに見つけてもらうためだとか、「儚い」人生だったからだとか。
「きれー………」
屋上から見えた夕日は強く輝いて、町を赤く照らしていた。
車のエンジン音が、子供の笑い声が、聞こえる。
みんなの母校であったはずのこの校舎はひとりぼっちなのに、みんなには当たり前に家族や友達がそばにいる。
この場所にずっとひとりでさみしいよね。
わたしだけは忘れない。
寄り添ってあげたい。
わたしは脱いだ靴を揃えて置いた。
薄い靴下越しに地面の冷たさを感じる。
フェンスにかかっていた鎖を解いて扉を押すと、錆びた扉はいとも簡単に開いた。
景色を遮る物がなくなって、開放感のようなものを感じる。
少し出っ張っている部分は、想像していたよりも以外と広かった。
と言っても、うっかり足を滑らせたりしたら真っ逆さまだろうな。
想像して、息を飲んだ。
わたしは今から、ここから………＿＿＿＿
「A」
「うそ…………」
わたしの大好きな、心が落ち着くような、少し低くい優しい声。
いま、ここにいるはずがないのに
「…………なんで」
「Aが、助けてって言ってた」
「言ってないよ、ひと言も」
「心が、言ってた。違う？」
違くない。
わたしは、誰かに気づいてほしくて、でも頼り方なんてわからなくてここまで来たから。
「来て。こっちに戻ってきて………お願いだから」
「もう帰れないよ。帰り方、わからないし」
まゆは遅すぎるんだよ。
もう、わたしは帰らない。
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作者名：芳野 | 作成日時：2023年3月31日 23時
