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xx_13 ページ19

「Aさん」


収録の帰り、偶然出会った加賀美さんと来たのは人の少ないカフェ。

平日の昼間ということもあって、客はわたしたち以外には一組だけだった。


初めて来たけれど、カフェの雰囲気は落ち着いていてすごく素敵。

通された一番奥の席からは庭が見えて、気分をリラックスさせてくれる。


口をつけていたティーカップをソーサーに戻して、加賀美さんに向き直る。

そもそも、今わたしがここにいるのは加賀美さんに誘われたからだ。


わたしを見つめる加賀美さんの表情はいつになく真剣なものだった。


「あの、間違えだったら申し訳ないないんですけど……」
 

加賀美さんはなんとなく言いづらそうに吃っている。

いつもハキハキものを言う加賀美さんにしては珍しい。


それとも、それほど話しづらいことなのだろうか。

わたしは目線で続きを言うように促した。


「最近、Aさん、何か変なことを考えていませんか?」

「変なこと、ですか?」

「いや!変な意味はなくて!ただ、なんというか……最近のAさんが、以前と違って妙にさっぱりしているというか」


はっきりしないもの言いに苛立ちを覚える。

自分に対して変に気を遣われているのが気にくわない。

わたしと加賀美さんは、そんなふうに本音も言い合えない仲じゃないって、わたしは思っているのに。


「じゃあ、はっきり言います」

鋭い眼差しにどきっとする。

加賀美さんは人の心を揺さぶってしまうような、芯の強い人だ。

だから加賀美さんと話していると、ときどき私の意志も揺らいでしまうような気がしていた。



「Aさん、しぬつもりなんじゃないですか」


ほら、やっぱり。

なんとなく、そう言われることは心の底では分かっていた。

遅かれ早かれ、加賀美さんは気づいてしまうって思っていた。


でも、加賀美さんに気づかれたら、わたしの『しにたい』っていう気持ちが揺らいでしまうと思ったから必死に隠していたのに。



「もし……もしもわたしが、そうです、って言ったら、加賀美さんはわたしを止めるんですか?」


「止めます」



目眩がするような心地だった。

わたしの意見を受け止めたまゆと、わたしを止めようとする加賀美さん。
 
ふたりとも大切で、わたしの味方のはずなのに。


どちらかを選ぶ、というわけではないし、どちらを選んでもわたしの自由だけど、これはもうわたしだけの問題じゃなくなってしまったような気がした。

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作者名:芳野 | 作成日時:2023年3月31日 23時

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