xx＿12 ページ17
「しにたい」
気づけば、無意識に、口からこぼれていた。
口に出して初めて実感する。
あの頃の記憶が、後遺症が、遣る瀬無さが消えなくて、ずっとずっとつらいままなんだ。
やっと幸せになったと思ったけど、結局わたしは早くいなくなってしまいたくて苦しい。
来月になれば、あの学校は消えてしまう。
それでようやく終わると、解放されると思ったのに……
解放されるどころか、学校の存在が頭から離れなくなって、あの頃に逆戻りしてしまった。
それならいっそ、全部あの学校と一緒に捨てたい。
「やっとAの本音が聞けた」
イヤホン越しに聞こえたまゆの声は声以上ないくらいに優しいものだった。
「俺はわかってたよ。Aが早く死にたいんだって。普段からそんな感じしてた」
「……止めないの？」
まゆはわたしを止めるような素振りを少しも見せないから、少し戸惑う。
死にたいって言う人がいたら、ほとんどの人は引き留めると思うから。
「ハヤトさんなら止めてたかもね。けど、俺は止めないよ。Aの想いを尊重する。ここで止めても、Aのことを救える自信がないから」
その言葉はどこまでもまゆらしい答えだった。
加賀美さんとはまた違う優しさだなと感じた。
わたしの意見を受け止めて、一番に尊重してくれる。
こういうところが、まゆが人から好かれる理由なんだろうな。
「そっか、ありがとう」
「お礼言われるようなことはしてないけど。今日は遅いし、また今度連絡する。それじゃ」
「うん。遅くまで本当にありがとう。またね」
そう言って、わたしのほうから通話を切った。
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作者名：芳野 | 作成日時：2023年3月31日 23時
