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xx_08 ページ12

「あの、大丈夫ですか?」


端正な顔立ちの男性は目尻を下げて、わたしを気遣うような表情を見せた。


『大丈夫です』そう言おうとしたけれど、それは声にはならなかった。

代わりに小さな嗚咽が漏れる。


泣くほどつらいことじゃない、そこまで悲しんでない。

自分に言い聞かせるけど、目の奥が熱くなって涙の膜ができる。


知らない人の前で、それも突然泣き出したら困らせてしまうなんてこと分かっていたけれど、涙は堰を切ったように溢れ出した。


「すみません!私、何か……」

「ちがう、ちがうの」


男性の慌てるような声に俯いたまま小さく首を横に振った。

あなたのせいじゃないから大丈夫、って伝えたいのに「ちがう」という言葉しか出てこず、さらに男性を困らせてしまった。


正直、わたしは、さっきの出来事について、泣きたくなるほどつらいとは感じていない。

けれど、自分の感情とは裏腹に涙は止まることを知らずに流れ続けている。



背中を撫でる男性の手の温度を感じながら、わたしは自分がこれほどまでに弱い人間だったということに初めて気が付いた。

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作者名:芳野 | 作成日時:2023年3月31日 23時

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