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『いいえ、私には』
「……。そうですか、分かりました」
名前も分からぬこの男、どうやらAに備わる"才能"の片鱗に勘付いているらしい。
何度かそれらしいことを遠回しに嗅がれ、その度に躱してきた。
今日とてそれは同じ。何食わぬ顔で微笑んで、Aはただ首を振る。
そうすればこの男は、賢くも引き下がってくれるのだ。彼女の後ろには当然、"フィリアス"が居るから。
その後、討伐したときの様子をいくつか聞かれ、やがて彼は満足したように持っていた冊子をパタンと閉じた。
Aの肩からも、人知れず力が抜ける。しかし男は、あぁ、と思い出したように続けた。
「そういえば、同じく報告書を上げたのは確か、ライトナー侯爵のご子息でしたね」
『え？』
「彼とはご面識が？」
『い、いえ……』
ライトナー侯爵？
貴族の知り合いなど心当たりのないAは、曖昧に否定する。
しかしどこかで聞いた覚えのあるような名前に、脳内で考えを巡らせた。基本的に貴族の名前にあまり興味のない彼女が、覚えているとするなら。
――そうそう。面白いので言えば、遺伝的に《光》の適性をもつ家系もありますね。
『……あ』
思い至った考えに、脳が震えた。
そうだ、興味深いと思っていたその家系が、確かライトナー侯爵家。
でも、侯爵家のご子息ともあろう方が、同じような報告書を上げるか？
だって、私があのとき一緒に居たのは――
『――！』
カチリとはまったピースが、ただ一つの事実に辿り着く。
自分で導いた答えに自分自身が信じられなくて、心臓がうるさく鳴り響いた。
「……あぁ、噂をすればだ」
目の前でぼそりと呟かれた声に、大袈裟にも驚いてしまった。
彼の目はAを追い越して何かを捉え、やがて畏まって頭を垂れた。
「これは、ライトナー侯爵閣下。それから侯爵夫人と、後ろにいらっしゃるのはご子息様ですね。ちょうど、ご子息様の話をしておりました」
ごくりと唾を呑んで、おそろおそる振り返る。
そこに居たのは、グレーのタキシードを着こなした壮年の男性と、深い緑色のドレスを纏ったご夫人。
そしてその後ろ。
『……ぁ』
Aの顔は、みるみると驚きに染められていく。予想外の、そしてまさに予想をしていたその男。
『――ロボロ、さん』
あの日見たままの桃色の瞳が、真っ直ぐとAを向いていた。
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江之子(プロフ) - みかんさん» コメントありがとうございます。頑張ります！これからもお楽しみください。 (2020年7月13日 16時) (
レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 藻塩。さん» コメントありがとうございます。気に入ってもらえる展開でしたか！作者も好きです、書くときちょっと辛くなりましたが…(笑) (2020年7月13日 16時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - コメント失礼致します。とても面白く読ませて頂いています。これからも更新頑張って下さい。 (2020年7月12日 19時) (レス) id: 8cc228e6cc (このIDを非表示/違反報告)
藻塩。(プロフ) - 江之子さん» コメ失礼します、すんごく展開が好きです…！これからも無理しないように頑張ってください！ (2020年7月12日 14時) (レス) id: 7b5f2afcc4 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 菜の葉さん» コメントありがとうございます。登場人物たちに感情移入してもらえるとは、この上ない褒め言葉です…！頑張ります。 (2020年7月11日 0時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年4月20日 23時
