▼ ページ2
.
「ん？」
小さな指が真っ直ぐ指した先に、父親は振り返る。
Aが"あれ"と言ったものを確認して、彼は緊張をはらませて息を潜めた。
「……。魔物だ」
「……おかしいわね、こんな入り口まで出てくるなんて」
「見たところ生まれたばかりのようだ。縄張りから迷い出てきたんだろう」
暗闇に浮かんだのは、小さな紫色の光。人の脛ほどの高さしかないが、"ウロの洞窟"に棲息する蜘蛛の魔物に違いなかった。
両親は顔を寄せ合わせて、囁くように相談する。
状況が掴めないAであったが、両親の緊張は手に取るように分かって黙り込んでいた。
やがてAに視線を戻した二人は、帰ろう、とその手を取る。
『……？』
魔物というものにまだ関わりのなかったAは、あの小さな黒い生き物が脅威であるとは思わなかった。
ただ、両親の顔が普段とは違う険しいものだったから。だから、黙って従った。
――と、完全に背を向ける直前に、Aは気付く。
『……。お父さん、大きいの、いる』
「……っ！？ な、どうして」
繋がれた手に、ぎゅう、と力がこもる。
A達の視線の先に、紫の光が増えた。先程のよりもずっと、大きいのが。
Aの幼い胸の内に、そこで初めて恐怖が生まれた。
「……走ろう」
手が握り直されて引っ張られる。震えはじめた足で、Aは駆け出した。
今はもう後ろを確認する余裕などなく、ただ前を見て足を動かすしか頭になかった。あれから、逃げなければ。
「くそっ、見つかった！！」
「そんな……！」
頭上で両親の焦った声が上がる。そこでもう一度振り返ったとき、見たこともない巨大な蜘蛛がこちらに向かってくるのが見えた。
それが生む足音は、まさに悪夢が始まった音だ。
父親が手を離し、母親とAを急かす。
「行けっ！ 早く！！」
Aの父親が、覚悟を決めた瞬間だった。彼は二人に背を向けて、巨大蜘蛛の前に立ちふさがる。
人間一人が太刀打ちできるような相手でないことは、Aにだって分かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 135人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
江之子(プロフ) - みかんさん» コメントありがとうございます。頑張ります！これからもお楽しみください。 (2020年7月13日 16時) (
レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 藻塩。さん» コメントありがとうございます。気に入ってもらえる展開でしたか！作者も好きです、書くときちょっと辛くなりましたが…(笑) (2020年7月13日 16時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
みかん - コメント失礼致します。とても面白く読ませて頂いています。これからも更新頑張って下さい。 (2020年7月12日 19時) (レス) id: 8cc228e6cc (このIDを非表示/違反報告)
藻塩。(プロフ) - 江之子さん» コメ失礼します、すんごく展開が好きです…！これからも無理しないように頑張ってください！ (2020年7月12日 14時) (レス) id: 7b5f2afcc4 (このIDを非表示/違反報告)
江之子(プロフ) - 菜の葉さん» コメントありがとうございます。登場人物たちに感情移入してもらえるとは、この上ない褒め言葉です…！頑張ります。 (2020年7月11日 0時) (レス) id: f8221d30c6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：江之子
| 作成日時：2020年4月20日 23時
