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真剣そのものの彼女には、今、一切の音が聞こえていないみたいだった。
いや、音どころか視界さえも、彼女は別のどこかに居るのかもしれない。そう感じてしまうほど、世界が違う。
「……すげーなぁ」
普段それほど誰かを褒めるほうではない自分から、自然と零れ落ちた賛辞。どこがどう凄いのか、分かっているショッピが羨ましいと思うくらいだ。
彼女の指先から絶え間なく溢れる光の粒が、魔石を撫でて、周囲に散る。あぁ、こいつすげー奴なんや。
そんな彼女と出会って、早々に"友好の印"を差し出した過去の自分を、べらぼうに褒めてやりたい。
そうして彼女を取り巻く世界は、数分もしないうちに終わりを遂げた。
それは長いようで短く、あっという間なようでいつまでも続いているみたいな、そんな感覚だった。
『できた』
たった一言、そう言って、Aは一つの器に集めた《
ザロは黙って、溶けた鉄合金の入った容器を差し出した。その熱気に当たらないように、そうっと粉を注ぐ。
粉が触れたところから鉄合金は青く発光して、ザロがゆっくりとかき混ぜるとやがて元の色へと戻っていった。
それを最後まで見届けて、Aはようやっと大きく息を吐いた。
『っ、はぁーー！ 終わった終わったー』
いつもの間の抜けた声で振り向いた彼女は、いまだ呆けたようにこちらを見ているゾムとショッピに首を傾げる。
そして何を思ったか、両手にVサインと、満面の笑みをつくってみせるのだ。
別の世界から唐突に帰ってきたそのひとに、ゾムは眩しげに目を細めた。
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年3月25日 23時
