53#エピローグ ページ32
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「――A」
呼ばれて振り返ると、穏やかに笑みを湛える彼がいた。
名前を呼び返して駆け寄れば、一層笑みを深めてくれることを知っている。
預かっていたヘルメットを手渡せば、彼は受け取ってすぐに、私の頭へと被せてしまう。
そうして手を差し出してくれるから、私は文句も言わずその手を取った。
「ふは、嬉しそうっすね」
小さく吹き出して、目を細めて笑う彼の表情を見ていると、ふと思い出した光景があった。
『……最初に会った日』
「え？」
『ショッピさんが隣に座って、ご馳走を食べたときです』
「……あぁ」
私が彼と初めて会った、あの日のことだ。きっと彼には些細なことで、多分覚えてもいないだろうけど。
『"美味しそうに食べますね"って言って笑ってくれたの、覚えてます？』
「……」
彼は案の定、眉をしかめて首を傾げる。
『考えてみれば私、あのときすでに、ショッピさんにときめいてたかもしれません』
思い出して、ふふ、と笑みが零れる。これはドキッとしたでしょ、と彼を振り仰げば。
彼はこちらをじっと見つめて、そして何故か、にんまりと勝ち誇ったように口の端を吊り上げた。
「それじゃあ、俺の勝ちっすね」
『え？』
彼のこの顔は、今までに何度か見たことがある。
そしてそれは決まって同じような結果を招くから、私は嫌な予感に口元を歪めた。
「その前に、リーンがこけて、あんたが助けたでしょ」
『え――』
――どうして。だって、あのとき居なかったじゃん。
「俺は、あれを見たからあんたの隣に座ったんや」
『ショ、ショッピさ』
「サポート役だって、下心で引き受けたし」
『……』
明け透けにも語られる真実に、顔が自然と地面を向いていく。
あぁそうだ、忘れていた。
彼はいつも澄ました顔をしているクセして、さらりと粋なことを言ってのける人だった。
「――――俺は最初っから、あんたを見てましたよ」
〜『竜棲む峠の世話係』Fin〜
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クロエ(プロフ) - ありがとうございます！！！！！！ (10月8日 4時) (
レス) id: 3d0234bb1d (このIDを非表示/違反報告)
クロエ(プロフ) - どうしてこの話がまだまだ伸びないのか疑問すぎる！！なんだか分厚い辞典でこの小説欲しいくらいなんか好きです！！！！！！最初の出会いからこの話の終わりまでずっとニマニマしちゃって覚醒の時なんかボロボロ泣いちゃいました！！めっちゃいい話を書いてくれて (10月8日 4時) (レス) @page33 id: 3d0234bb1d (このIDを非表示/違反報告)
妖々梅雨里(プロフ) - 最初から、最後まで。主人公の感情にこちらも身を乗り出してしまうかと思うくらい入り込めました。最後にはつい感極まって泣いてしまいました。素晴らしい作品をありがとうございます!!! (2021年12月25日 23時) (レス) id: f5b2ce54f6 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - とても素敵な物語でした…語彙が乏しいことにここまで後悔する日が来ようとは…!!1冊の小説を読んだ気分です。本当に本当に素敵な物語をありがとうございました！！ (2021年4月6日 23時) (レス) id: 31e2beb33a (このIDを非表示/違反報告)
つ旦(プロフ) - ここ最近で一番作品の世界にのめり込んでしまいました。距離感や環境に心温まり、ストーリーを読むにつれて心満たされていく感覚が最高でした。素敵な作品を書いてくださり本当にありがとうございます。 (2021年2月1日 17時) (レス) id: 4806c4a672 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年6月25日 2時
