▼ ページ4
.
――――……
――……
外から聞こえてくる砲弾の音が、しばらく前に止まった。
私たちがいる竜の間は外の光が入らない場所であるため、今が一体何時であるのか見定める術がない。
永遠かのように思えた時間が過ぎ、ようやく村の男性陣が戻って来た。
「――A嬢、どうして」
グルッペンさんを筆頭に、居るはずのない私を見つけた面々は次々と驚愕の声を上げる。
「俺が、連れてきました」
「ショッピ君？ ……え、まじで！？」
『(無事だった……)』
ショッピさんは見送ったときと変わらず、飄々と歩いてきた。
「ちゃんと、戻りましたよ」
『……はい、おかえりなさい』
真っ直ぐに私の元へと来てくれる彼は、いつもみたいに小憎たらしい笑みを浮かべて。
周りの目が完全にこっちを向いているにもかかわらず、ショッピさんは私を引き寄せた。
「ぶっ！ え、え、いつの間にそんな！？」
「……展開早過ぎますわぁ」
「ちょいちょいちょーいショッピぃ！ おま、こんな戦争しとるっちゅうときにそんな！」
「うるさいですクソ先輩。今から大事なとこなんで、邪魔せんといてもらえます？」
後ろからやいやいと飛んでくる野次を気にも留めず、彼は竜の間の奥側へと私を連れてゆく。
その先には、入り口とはまた別の大きな穴が開いていた。穴は山岳の頂上にある亀裂へと続いており、つまりはそこは、竜たちがここを出入りするための道だ。
「竜たちが、戻ってきます」
『……はい』
いつもは竜王が鎮座している定位置に立つと、巨大な穴の奥から強い風の音が響いてきた。
「――……一発くらい、殴られるかな」
『え――』
ぶわりと吹き込んだ風に紛れて、ふと隣から声が聞こえた気がした。
結局それを聞き返す暇もなく、幾数もの竜たちが一斉に竜の間へとなだれ込む。はためく裾を押さえていると、最後に竜王が現れた。
『……っ』
その姿を見とめた瞬間、洩れそうになった嗚咽を必死に抑え込む。
輝かんばかりだった白銀の肢体が、痛々しいほどの傷を携えていた。
息を荒げたまま翼を折りたたんだ竜王は、そのまま定位置に腰を据えようとして。
「――！！」
――私に、気付いた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1753人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「wrwrd」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クロエ(プロフ) - ありがとうございます！！！！！！ (10月8日 4時) (
レス) id: 3d0234bb1d (このIDを非表示/違反報告)
クロエ(プロフ) - どうしてこの話がまだまだ伸びないのか疑問すぎる！！なんだか分厚い辞典でこの小説欲しいくらいなんか好きです！！！！！！最初の出会いからこの話の終わりまでずっとニマニマしちゃって覚醒の時なんかボロボロ泣いちゃいました！！めっちゃいい話を書いてくれて (10月8日 4時) (レス) @page33 id: 3d0234bb1d (このIDを非表示/違反報告)
妖々梅雨里(プロフ) - 最初から、最後まで。主人公の感情にこちらも身を乗り出してしまうかと思うくらい入り込めました。最後にはつい感極まって泣いてしまいました。素晴らしい作品をありがとうございます!!! (2021年12月25日 23時) (レス) id: f5b2ce54f6 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - とても素敵な物語でした…語彙が乏しいことにここまで後悔する日が来ようとは…!!1冊の小説を読んだ気分です。本当に本当に素敵な物語をありがとうございました！！ (2021年4月6日 23時) (レス) id: 31e2beb33a (このIDを非表示/違反報告)
つ旦(プロフ) - ここ最近で一番作品の世界にのめり込んでしまいました。距離感や環境に心温まり、ストーリーを読むにつれて心満たされていく感覚が最高でした。素敵な作品を書いてくださり本当にありがとうございます。 (2021年2月1日 17時) (レス) id: 4806c4a672 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：江之子
| 作成日時：2020年6月25日 2時
