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『……！』
手放した、私の最期の記憶。それを人伝に聞くというのは、何とも不思議な感覚である。
「あの日、暴走した車が突っ込んできて……本当なら、俺だけ死ぬはずだった」
『……』
「でもお前は、俺の前に飛び出して――全身を強く打って、目の前で死んだ」
――まぁ、俺も結局、運ばれた先で死んじまったんだけど。
そう続けられて、手足が震える。……なに、何よそれ。全然助けられてないじゃん、私。
彼は事実を言っているのだろう。だけど、私の頭には一向に、そのときの情景は浮かんでこない。
「この世界に生まれ落ちても、その光景だけが忘れられなくて。……苦しかったよ」
『っ、ごめん……ごめん、私のせいだ』
「……確かに、お前のせいっちゃお前のせいかもなぁ」
『――！』
「でも、救われたのも、お前のおかげだよ」
そう言って、こいつは笑う。
鼻がつんと痛くなって、涙腺が緩む。唇を噛んで必死に我慢した。
「生まれ変わっても、お前は全ッ然変わんねぇ。弱っちいクセに、すぐに飛び出しちまう」
竜王は立ち上がって、ゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。
「でも今度は――そんなお節介な奴でも、守ってやれる力がある」
『……っ』
我慢の限界だった。ぶわりと溢れた涙が、竜王の顔を滲ませていく。
「――A」
突如呼ばれた名前に、嗚咽とは違って、喉がひくりと鳴った。
……初めて。
初めて、今世の彼に、今世の名を呼ばれたのだ。
それは私たちだけが分かる、私たちにしか見えない、線引き。
「これでやっと、俺も"今"を生きられるよ」
『……。……うん』
頬を滑る涙が、どんな感情によるものなのか。あまり、言葉に出して表したくない。
笑おうとしているのに、顔の筋肉が言うことを聞かなくて。
これ以上情けない様を見せないように、顔を俯かせる。
「……ハグでもすっか？」
『え――』
が、予想外の言葉に、思わず弾かれるように顔を上げてしまった。
竜王は言葉通りに、両手を広げた状態でそこに立っていた。照れ臭いのか、ちょっとだけ眉をしかめて。
「そうだな……。"お別れ"と――
――"これからよろしく"のハグだ」
『……っ、はは、何それ！』
「何だよ、お前が泣きじゃくるからだろ」
あぁ、もしかしたら私は、必要以上に考え過ぎていたのかもしれない。
生まれたときから他とは違う人生の中で、唯一共通点を持った、彼に出会って。
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クロエ(プロフ) - ありがとうございます！！！！！！ (10月8日 4時) (
レス) id: 3d0234bb1d (このIDを非表示/違反報告)
クロエ(プロフ) - どうしてこの話がまだまだ伸びないのか疑問すぎる！！なんだか分厚い辞典でこの小説欲しいくらいなんか好きです！！！！！！最初の出会いからこの話の終わりまでずっとニマニマしちゃって覚醒の時なんかボロボロ泣いちゃいました！！めっちゃいい話を書いてくれて (10月8日 4時) (レス) @page33 id: 3d0234bb1d (このIDを非表示/違反報告)
妖々梅雨里(プロフ) - 最初から、最後まで。主人公の感情にこちらも身を乗り出してしまうかと思うくらい入り込めました。最後にはつい感極まって泣いてしまいました。素晴らしい作品をありがとうございます!!! (2021年12月25日 23時) (レス) id: f5b2ce54f6 (このIDを非表示/違反報告)
ななし - とても素敵な物語でした…語彙が乏しいことにここまで後悔する日が来ようとは…!!1冊の小説を読んだ気分です。本当に本当に素敵な物語をありがとうございました！！ (2021年4月6日 23時) (レス) id: 31e2beb33a (このIDを非表示/違反報告)
つ旦(プロフ) - ここ最近で一番作品の世界にのめり込んでしまいました。距離感や環境に心温まり、ストーリーを読むにつれて心満たされていく感覚が最高でした。素敵な作品を書いてくださり本当にありがとうございます。 (2021年2月1日 17時) (レス) id: 4806c4a672 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：江之子
| 作成日時：2020年6月25日 2時
