産屋敷家長女の物語

拾仇 ページ27

目が覚めてから2日後

「何故もう傷がほとんど治っているのですか…。」

『何故かしらね。分からないわ…。』

私は今しのぶに傷を診てもらっているのだけれど、全治2、3週間の怪我がほぼ治っていて戦慄しているわ。鬼滅の刃の世界は確かに怪我の治りが早いと思っていたけれど、ここまでとはね。もしかして私って普通ではないのかしら。←

「ここまで治ればお館様に報告に行くぐらいはしてもいいですよ。」

と、しのぶからお許しが出たので隊服に着替えて産屋敷邸に向かう。何だか緊張するわ。自分の家でもあるのに。

『父様………。』

この時間は縁側にいると思って来てみたら、案の定いたわ。どうしてこんなに緊張しているの？お館様との約束は守ってみんな生きてるのに、何故？

「おかえり、A。大変だったね。怪我の具合はどうかな？」

急いで父様の前に跪くと、手が震えている。

『ただいま戻りました。上弦の参を滅することが出来ず申し訳ありませんでした。怪我はもう何ともありません。お気遣いありがとうございます。』

声が、震える。どうしてなの？

「A、Aは何が怖いのかな？今回は誰も死ななかった。私との約束も守った。そうだろう？」

怖い……？私が何かを怖がっているの？
そう、怖かったのね。死んでしまう運命の人を救えるのかがずっと不安で不安で仕方がなくて、でも誰にも相談出来なくて、自分の中に押し込んで飲み込んで無かったことにしていた。それでは壊れてしまうのに。

『私は分かってなかったのです。錆兎やカナエの時とは異なって杏寿郎はお話が始まってから、だったのです。私は”その場面”私を見ました。命が散ってしまう所を、見たのです。きっと私にはまだ覚悟が足りていないのです。”私”が目覚めてから10年もあったのに。本当に不甲斐ないです。』

杏寿郎にあんなに偉そうなこと言っておいて、私自身は何も出来ていないじゃない。

「確かにAの言う通りかもしれない。でもね、今回Aに救われた人がどれだけいるか分かるかい？杏寿郎も言っていたよ。自分が弱く不甲斐ないせいでAに傷を負わせてしまった、とね。覚悟が足りなかったなら、これからすればいい。不甲斐ないと思うなら、今よりも努力をすればいい。Aはよく頑張っているよ。そんなに自分を責めなくていいんだよ。それに、親の立場から言うと、それ以上頑張られてしまうととても心配だよ。無理はしないようにね。」

『御意』

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