二度目のデート−1 ページ5
<Yuzuru Sude>
明け方まで雨を降らせていた低気圧は東へ去って、洗われたばかりの樹葉の色彩は、陽の光を弾いて眩しいばかりに鮮やかだった。
本格的なシーズンが始まる直前のこの時期、これまでの俺なら精神的にも張り詰めていて、景色に心を奪われる余裕なんて皆無だったのに。
今は、目に映る小さなことでも新鮮に思える。
「ただいまー」
毎年出演しているチャリティー番組の事前打ち合わせの帰り道、久しぶりに実家へ寄る。
「あら、おかえりなさい」
一人暮らしは自由で気ままだけど、こうして「おかえり」って迎えてくれる家族がいるのは幸せだなと、リビングで迎えてくれた母さんと姉ちゃんの顔を見て思う。
本当はもう少し実家で甘えていたかったんだけどなー。
引退して早々に、アラサー男子は独立すべしと、追い出されてしまった。
「そういえば、お父さんに頼んでいたお店の件だけど、話を通しておいたからって言っていたわよ」
「あ、そうなんだ。ありがと」
父さんが懇意にしている、郊外の和食のお店。
家族でも何度か行ったことがあって信頼できるから、Aとの食事に使わせてもらおうと考えていた。
「いつでも個室をご用意するから、日にちが決まったら連絡くださいって」
「ん、わかった」
今日にでもAに都合聞いてみよっと。
頭の中で自分のスケジュールを組み立てていると、じっ……とこちらを窺っている姉ちゃんの視線に気づく。
「なに?」
「んー、誰と行くのかなーと思ってね。予約は二人なんでしょう?」
「……友人だけど」
「女の子の?」
話の流れが触れて欲しくない方向にきて、そっぽを向くと、母さんとばっちり目が合ってしまう。
どうやら、母さんも俺の返答を待っているらしい。
「お店の雰囲気からして男二人で行くところじゃないもんね」
「そうだよ、悪い?」
「まさか。あんたにも春がきて、お姉ちゃんは嬉しいわ」
「でも、友人だから」
春だと決めつけるのは、まだ早い。
「どこで出会った方なの?」
それまで黙って聞いていた母さんがここで口を挟んできた。
好奇心というより心配げな表情の母さんを見て、相手の素性を気にしているんだなとわかる。
「地元の子、中学の同級生だから」
「中学の? もしかして―――綾瀬さん?」
危うく、俺は椅子から飛び上がりそうになった。
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エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、コメントありがとうございます。しばらくじれったい状態を続ける予定です(笑) 罪悪感と妄想の狭間で悩みますが、結局妄想には勝てない。心の中で羽生さんに謝りながら書いています(^_^;) (2022年1月12日 22時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - ちなみに、罪悪感は、私の場合三日くらい経ったら消えます(笑)最初はすごくあったけど、結局妄想は止まらない感じ…。申訳ないですよね、ほんと。 (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - くっつきそうでくっつかない(笑)じれったい二人をまだまだ見ていたいです^^毎日楽しみにしています!ぜひぜひ羽生さんに幸せをあげてください! (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2021年12月18日 20時