終わらない恋−６ ページ30
「……結弦くん……スケート以外に読心術もマスターしてるの？ それとも、エスパー？」
「んなわけねー」
呆れた口調で返した結弦くんは、
「俺、Aのこと、よく見てるから。嘘つけると思うなよ」
口角を上げて、私を見下ろした。
「……それ、コワイんだけど」
「なんで？ 俺に嘘つかなきゃいいじゃん」
ふふふっと笑う結弦くんは、悪い人の顔になってる。
「ズルくない？ 私は結弦くんの嘘を見破れないのに」
頭が良くて、用意周到なうえに、演技もできるんだから。
「大丈夫。俺は、Aに嘘はつかない」
ゆっくり瞬きをした結弦くんは、私をまっすぐ見つめる。
「自惚れているわけじゃないけど、引退した今もファンはたくさんいるし、モテることも否定しない。他にも女の子と遊んでいるかもって、Aが俺を疑うのもわかる」
「………………」
「だから、しつこいぐらい何度でも言う。Aだけだって。俺を信じて欲しいから」
「……結弦くん……」
黒い瞳は柔らかな光を帯びているけど、私の心を逃さない強さがあって―――
なぜ、とか、どうして？ なんて疑問すら、消し去ってしまう。
「A……」
私は―――この瞳を、知ってる。
十年前の夏の日、結弦くんから気持ちを打ち明けられたときと同じ、熱を帯びた瞳。
私への罪滅ぼしでもない、勘違いでもない。
言葉にされなくても、結弦くんの想いが伝わってくる。
身動きができない私を眩しいものでも見るように目を細めた結弦くんが、ゆっくりと腕を伸ばしてきて―――
私は甘くて優しい香りとぬくもりに包まれた。
自分の心臓の音がうるさいぐらい鼓膜の奥で鳴っている。
体温が急激に上がり、酸素を求めて吐いた息さえ熱っぽい気がした。
強張っている私の体を気遣うように、結弦くんは私の頭をそっと撫でて、自分の胸に押し付ける。
耳に心地よく響く、結弦くんの心音。
結弦くんがそばにいる。
私の手が届く、すぐそばに。
もう二度と会うことはないと覚悟して、手放した恋だったのに。
過去を超えて、結弦くんはこうして私のそばにいる。
ねえ、結弦くん。
私は、また結弦くんを好きになっていいの？
結弦くんとなら、終わらない恋をはじめることができるのかな……。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 203人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、コメントありがとうございます。しばらくじれったい状態を続ける予定です(笑) 罪悪感と妄想の狭間で悩みますが、結局妄想には勝てない。心の中で羽生さんに謝りながら書いています(^_^;) (2022年1月12日 22時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - ちなみに、罪悪感は、私の場合三日くらい経ったら消えます(笑)最初はすごくあったけど、結局妄想は止まらない感じ…。申訳ないですよね、ほんと。 (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - くっつきそうでくっつかない(笑)じれったい二人をまだまだ見ていたいです＾＾毎日楽しみにしています！ぜひぜひ羽生さんに幸せをあげてください！ (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2021年12月18日 20時
