二度目のデート−７ ページ11
＜Yuzuru Side＞
前のめりで嬉しそうに話しているAを単純な奴って思いながら、再会して初めて見る屈託のない笑顔にこっちまで自然と幸せになるから。
タイプ云々は、とりあえずいっか。
せっかくAと会っているんだから、楽しもう。
「結弦くん、聞いていい？」
ぼたん海老と夏野菜にジュレがかかった冷たい鉢を食べ終わったAが箸を置いて、改まったふうに俺を見つめる。
「なに？」
「現役引退して、この先ってなにをする予定なの？ やっぱりコーチとか？」
「うーん、フィギュアスケートに関わる仕事をしたいと考えているけど、まだはっきりとは決めていない。納得できる演技ができるうちはプロとして自分もスケーターでいたいし」
自分が学んできたもの、経験してきたものを若いスケーターに引き継いでいきたい気持ちはある。
ブライアンや奈々美先生を見ていたから、指導者の大変さや責任の重さはわかっているつもり。
メダリストだからって、指導者として優秀かどうかもわからない。
それでも、俺にしかできない役割があるはずだ。
「……じゃあ、また海外に行くことも考えてる？」
俺の心の内を窺うようなAの黒い瞳と目が合う。
「海外？ いや、今のところ考えてない」
「だけど、日本にいるより、海外のほうが結弦くんにとって過ごしやすいんじゃない？」
「それは、まあ……」
そりゃ、家から一歩出れば騒がれる環境は、過ごしやすいとは言えない。
「でも、やっぱ仙台が好きだから。少なくともスケーターでいる間は、日本を離れるつもりはないかな」
「そうなんだね」
俺から視線を外したAは、どことなく安堵しているようで。
お互いの距離がまた離れてしまうのを心配している？
仕事上の都合で海外に行くのがベストだと判断したら、拠点を移すこともあるかもしれないけど、現役の頃とは違う。
今の俺なら、スケートかAかではなく、どっちも失わずに済む方法を選ぶことができるはずだ。
それにしても、ね。
俺のこの先の話を聞いてくるってことは、Aも俺とのことを前向きに検討してくれているって考えていいのかな。
過去じゃなくて、未来を見てくれているって。
夏らしい青い陶器のお椀の蓋を開けると、食欲がそそられる香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
これも美味しそう！ と、目をキラキラさせているAに微笑み返しながら、俺の推察が当たっていればいいなと思った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 203人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、コメントありがとうございます。しばらくじれったい状態を続ける予定です(笑) 罪悪感と妄想の狭間で悩みますが、結局妄想には勝てない。心の中で羽生さんに謝りながら書いています(^_^;) (2022年1月12日 22時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - ちなみに、罪悪感は、私の場合三日くらい経ったら消えます(笑)最初はすごくあったけど、結局妄想は止まらない感じ…。申訳ないですよね、ほんと。 (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - くっつきそうでくっつかない(笑)じれったい二人をまだまだ見ていたいです＾＾毎日楽しみにしています！ぜひぜひ羽生さんに幸せをあげてください！ (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2021年12月18日 20時
