待ち伏せ−１ ページ1
夏休みに入り、来館者がぐっと増えた図書館は子どもたちがひっきりなしに出入りしている。
親子のためのワークショップ、工作教室や読書感想文の書き方教室などイベントが目白押しで、私は連日忙しくしていた。
「私にも夏休みが欲しい……」
明日のイベントの準備を終えて図書館を出たのは、二十時を過ぎた頃だった。
夜になっても暑さは衰えることなく、駅までの道を歩くうちに薄っすらと汗が滲んでくる。
家に帰ったら、すぐシャワー浴びたい。次に、冷えたビール。
自然と足早になった私が角を曲がろうとしたとき、背後で低音のクラクションが響いた。
そして、スーッと私の前に横付けされた一台の車。
暗がりでもわかる、磨かれたダークブルーの車体には見覚えが……。
「―――A」
助手席側の窓が下りて、顔を覗かせたのは―――結弦くんだった。
「今、帰り？」
「え、あ、うん」
ごく普通に聞かれて、つい答えてしまう。
「送って行くよ、乗って」
「へ？」
「ほら、早く」
「え、いや、自分で帰るから大丈夫」
答えながら、後ずさりする。
二度と会うことがないはずだった。
結弦くんは、めったに生息が確認できない稀有な存在なのに、なんて偶然……。
「遠慮はいらねーから、乗れって。あー、この前みたく俺がドア開けたほうがいい？」
「え？」
言いながら、結弦くんはシートベルトを外すと運転席側から降りようとしていて、私は咄嗟に辺りを見回した。
五メートルほど離れた場所にこっちへ向かって歩いて来る二人組の姿があって。
「待って、人が来てるから」
「だったら、早く乗ってよ」
「え、いや……」
「どうすんの？ さっさとしないと俺、降りるよ」
「わ、わかったから」
背後から来ている人影を気にしつつ、私は助手席のドアを開けて体をすべり込ませた。
「冷房、強くない？」
「……うん、大丈夫」
カーエアコンから吹き出してくる冷たい風が心地よくて、あっという間に汗がひいていく。
「結弦くん」
「んー？」
「どこか出かけてたの？ 仕事帰り？」
「あ、うん、まあね」
「なんの仕事？」
「え？ えーっと、スケート関係」
「………………」
「たまたまAの姿が見えたから」
「……ふーん」
それにしては、歯切れが悪い。と、思っていたら。
「というのは、嘘。ごめん。実は図書館の駐車場でAが帰るの待っていた」
ちらっと私に視線を向けた結弦くんは、決まりが悪そうな顔をした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 203人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、コメントありがとうございます。しばらくじれったい状態を続ける予定です(笑) 罪悪感と妄想の狭間で悩みますが、結局妄想には勝てない。心の中で羽生さんに謝りながら書いています(^_^;) (2022年1月12日 22時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - ちなみに、罪悪感は、私の場合三日くらい経ったら消えます(笑)最初はすごくあったけど、結局妄想は止まらない感じ…。申訳ないですよね、ほんと。 (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
鹿(プロフ) - くっつきそうでくっつかない(笑)じれったい二人をまだまだ見ていたいです＾＾毎日楽しみにしています！ぜひぜひ羽生さんに幸せをあげてください！ (2022年1月12日 16時) (レス) id: ac41a7df10 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2021年12月18日 20時
