＊ ページ4
私にとって、羽生さんは手の届かないスターだ。
三つ下の私がシニアデビューしてから、同じ試合に出たり、アイスショーで一緒になったりとかはあるけど、挨拶程度で親しく話したことはなかった。
親しくなるのが憚れるほど、尊くて眩しくて、別次元の存在。
遠くから眺めているだけでよかった。
他の女の子のようにお近づきになりたいなんて思ったこともない。
今回のアイスショーは全国で五か所をまわる長丁場で、場所によって出演者の入れ替わりがある中、羽生さんも私もずっと参加していて、自然と話す回数が増えた。
十代の頃からずっと憧れている人に気さくに話しかけられたら、有頂天になってしまう。
おまけに話すたびにその人柄や考え方を知って、ますます憧れる気持ちが強くなる。
人懐こい笑顔を見せたかと思えば、ふとした仕草や表情で魅せる大人の男性としての色香。
憧れから恋に変わるのに、それほど時間はかからなかった。
でも、わきまえていたつもりだったのにな。
同じスケーターとして仲間と思ってもらえるだけで幸せだって。
すぐ隣に羽生さんの気配を感じる。
眠気なんて訪れるわけもなく、身じろぎすると、
「……眠れない？」
暗闇の向こうから羽生さんの声がした。
「羽生さん……」
私は上半身を起こして、ベッドの上に座る。
「やっぱり気になるので、正直に話してくれませんか？ その、……私、羽生さんになんて言いましたか？」
自分が彼になにを伝えて、どう接したのか。
知って後悔するかもしれないけど、知らないよりいい。
深いため息が聞こえた後、羽生さんが体を起こす様子がして、パッとダウンライトが点いた。
「……あ、寝ぐせ」
羽生さんの髪の毛がぴょんと立っていて、思わず呟く。
「もー」
唇を尖らせて髪を撫でつける羽生さんの姿を可愛いと思ったのもつかの間、はだけたバスローブから見える逞しい胸板に心がざわつく。
「本当になにも覚えてないの？」
「はい」
「……エレベーターの中で……俺のこと、ずっと好きだったって言ってくれて、抱きつかれた」
「…………………」
恥ずかしすぎて、体中がカッと熱くなる。
いっそのこと、このまま燃えて灰になりたい……。
「……すみません」
酔っぱらって前後不覚の状態の女の子を見捨てるわけにもいかず、優しい羽生さんはどれほど困っただろう。
もう、泣きたい。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 208人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - #Loveさん» #Loveさん、いつもコメントありがとうございます。羽生さん好きに貢献できて嬉しい〜(^o^)本当に励みになります！ちょこちょこ更新ですが、頑張ります！！ (2022年2月23日 16時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
#Love(プロフ) - またコメント失礼します。エミルさんのお話が好きすぎて毎日更新の通知が来ているか確認するくらいです笑 エミルさんが書く羽生くんがありありと想像できて、羽生くん好きに拍車がかかっています。これからも無理せず頑張ってください！！ (2022年2月23日 12時) (レス) @page16 id: bf26d2c99f (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - ゆきさん» ゆきさん、ご指摘ありがとうございます。名前、修正しました。 (2022年2月10日 17時) (レス) @page46 id: a72ef995e1 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 名前の変更ができていない所がありますので、お手隙の際に訂正をお願い致します。 (2022年2月10日 16時) (レス) @page47 id: 7b86ca7caf (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 璃子さん、短編も読んでくださり、ありがとうございます！元気に明るい「気」、そうですよね。羽生さんも頑張っていると思って、私も前向きに生活します。 (2021年11月7日 20時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2021年9月11日 20時
