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軋む胸の奥ー9 ページ9

<Yuzuru Side>

「結弦さんにとって恋愛よりスケートが大事。常にスケートを最優先に考えたいから、恋愛はしない。そうでしたよね?」

「……うん」

「だけど、あの夜、彼女からトラブルに遭ったと電話を受けた結弦さんは、なんの迷いもなく、スケートを中断し彼女の元に駆けつけた。それが答え」

言い返そうと開いた口は、なにも紡げず、俺は唇を噛んだ。

友達なんだから、困っていれば助けに行く。
人として当然ことをしただけ。


でも―――

あの夜の自分の行動を思い返してみる。


Aから電話を切られて、練習に戻ろうとした俺は……Aのことが気になって、自分からもう一度電話をかけた。

スケートの練習中だったのに。

あれが違う人間だったら、たとえば家族以外の誰かだったら、俺は電話をしただろうか?


「意地を張って、大切な人を失うのはもったいないわ」

……大切な人。

芽生えようとしている感情を封じ込めて、スケートだけに集中するのは、そう難しくない。
いつだってなにかを捨てて、スケートに生きてきた。


その結果、Aを失ったとしても、俺は―――


「―――嫌だ」

スッと心に落ちてきた本音。



”友達“という言葉に隠されていた感情の輪郭が定まり、脈打つ。


俺は、Aに恋をしている。

Aが好きなんだ。


軋む胸の奥で掴んだのは、恋をする自分の心。


 
 
「―――杏南さん、俺……」

「結弦さん」

言いかけた先を、杏南さんに遮られる。

「結婚の話はなかったことにしましょう。お互いのためにそのほうがいいわ」

「……、………」

杏南さんは、不思議なぐらい落ち着いてた。

「私を愛さなくても構わないけれど、他の誰かに恋している人の隣りにいるのはご免だもの」

「ごめんなさい」

両膝に手をついて、頭を下げる。

俺が自分の気持ちに早く気づいてさえいれば、この人に無駄な時間を過ごさせずに済んだ。謝って許されることじゃない。


 
 
「では、私は失礼しますね」

玄関先まで見送った俺に、杏南さんはそっと手を差し出した。

「応援していますわ。結弦さんのスケートも、恋も」

「ありがとうございます。杏南さんもお元気で」

俺を責めることもしない。

最初から最後まで、杏南さんは俺より一枚も二枚も上手だった。


「さようなら、結弦さん」

「さようなら」

握り返した手を放し、静かに閉じられたドア。

こうして、俺のお見合いは幕を閉じた。


 
 
 

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設定タグ:羽生結弦 , フィギュアスケート   
作品ジャンル:恋愛
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エミル(プロフ) - ころねさん» キュンキュンしてもらえて、嬉しいです♡ すっかり可愛い羽生さんになってしまいましたが、しばらくこの状態が続きます(笑) (2022年11月28日 22時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
ころね(プロフ) - うわ〜キュンキュンします♡赤面する羽生さん、かわいすぎる(^^)でももどかしい! (2022年11月28日 22時) (レス) @page37 id: 800fd7d527 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 二人の距離が縮まればいいなーと思いつつ、書いていますが……まだしばらく友達の予定(笑) (2022年11月18日 22時) (レス) @page27 id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
璃子(プロフ) - わぁぁ…ここで待て!ですか!!どうなっちゃうの?気になる〜〜 (2022年11月17日 22時) (レス) @page27 id: 9bf38dcb2c (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 璃子さん、ありがとうございます。ライビュは大きな画面で羽生さんを観ることができるのがいいですよね。ドアップになるたび、変な声が出そうになるけど(^_^;) 可愛い羽生さんは、書いていて楽しいです。しばらく恋に翻弄されてもらう予定(笑) (2022年11月1日 22時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:エミル | 作成日時:2022年10月25日 21時

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