一歩前進、二歩後退ー5 ページ44
<Yuzuru Side>
「アハハ、羽生選手と間違われるなんて、光栄やわ。あ、帰りにフルーツ買わせてもらいますね」
「ありがとうございます」
なんとか誤魔化し、くるりと後ろを向くと、Aが立っていた。
「なに、今の関西弁。イントネーション、変だよ」
ビニールハウスに向いながら、Aがクスクスと笑っている。
「とあるスケーターの真似」
「ふーん。咄嗟に演じることができるのがすごいね。さすが有名人だわ」
いつもは正体を隠したりしないんだけど、今日はAと一緒だから。
ビニールハウスの中は蒸し暑かった。
ルビー色につやつやと輝くさくらんぼが頭上にいくつもぶら下がっている。
「佐藤錦って高級品でしょ。頑張って、食べよ」
Aから摘んださくらんぼを入れる透明なカップを手渡された。30分食べ放題か、そんなに食べ続けられるものかな。
「あ、こっちのおいしそう」
「待って、俺が取ってあげる」
上の位置にあるさくらんぼを摘むための梯子にAが手をかけようとするのを見て、俺は声をかけた。
高い梯子だから落ちたら危ない。
俺は梯子に登り、傷のない綺麗なさくらんぼを厳選していくつかカップに入れる。
「はい、これでいい?」
「うん、ありがとう。―――ん、あまーい、おいしい!」
ふふ、めっちゃ幸せそうな顔。可愛いな。
「ゆづも食べなよ」
と、Aが俺のほうにカップを傾けてくるから、ちょっとした出来心が芽生えた。
「あーん」
「……、………」
目を真ん丸にするA。あ、引かれた?
「さっきのお礼ね」
拒否されるかと思ったのに、Aは指先でさくらんぼを摘まむと、俺の口に優しく入れてくれた。
「お、マジでおいしい」
甘酸っぱい果汁が口の中で弾ける。
「もう1個、ちょうだい」
「は? 子どもじゃないんだから、自分で食べなよ」
調子に乗ったら、カップを胸に押し付けられた。
「ふー、これ以上食べられね」
「うん、私も……」
しばらく、さくらんぼはいいや。
帰る前に約束どおり売店でさくらんぼを購入し、車へと戻る。
口の中が甘い。
だけど、それ以上に心も甘い感情で満たされていた。
Aは俺の態度に戸惑っていたけど、合わせてくれて。恋人同士のようなやりとりに嫌な顔しなかったし、正直、期待してしまう。
俺は、確実な手応えを掴んだ気でいた。
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エミル(プロフ) - ころねさん» キュンキュンしてもらえて、嬉しいです♡ すっかり可愛い羽生さんになってしまいましたが、しばらくこの状態が続きます(笑) (2022年11月28日 22時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
ころね(プロフ) - うわ〜キュンキュンします♡赤面する羽生さん、かわいすぎる(^^)でももどかしい! (2022年11月28日 22時) (レス) @page37 id: 800fd7d527 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 二人の距離が縮まればいいなーと思いつつ、書いていますが……まだしばらく友達の予定(笑) (2022年11月18日 22時) (レス) @page27 id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
璃子(プロフ) - わぁぁ…ここで待て!ですか!!どうなっちゃうの?気になる〜〜 (2022年11月17日 22時) (レス) @page27 id: 9bf38dcb2c (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 璃子さん、ありがとうございます。ライビュは大きな画面で羽生さんを観ることができるのがいいですよね。ドアップになるたび、変な声が出そうになるけど(^_^;) 可愛い羽生さんは、書いていて楽しいです。しばらく恋に翻弄されてもらう予定(笑) (2022年11月1日 22時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2022年10月25日 21時