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感情のもつれも、諍いもない、穏やかな交際。
せっかくだから、最後まで綺麗なままで。
醜い自分は見せたくない。
夜空に咲き誇る桜を二人で並んで眺めて、結弦の近況や将来の夢を聞いて、笑い合う。
―――それで、終わりにしよう。
風に舞う桜の花びらのように、潔く散らせて。
しかし、物事は思うように進まないのがこの世のセオリー。
「マジでごめん!」
結弦から電話がかかってきたのは、約束の2日前。
「先方がどうしてもこの日しか空いていなくて、東京に行かなくちゃいけなくなった。打ち合わせを延期する余裕もないし、本当にごめん」
先方が誰なのか、何のための打ち合わせなのか。
私には関係ない。結弦も説明しない。
「うん、いいよ。仕事だもん、しょうがないよね」
私との約束と打ち合わせ、どっちが大切なの!? ―――なんて文句を言うほど、子どもじゃないもん。
でも、少しだけ、わがままを言ってもいい?
「この埋め合わせは必ずするから」
だけど、その頃にはきっと桜は散っている。
だから―――
「結弦」
「うん」
「今、10分だけちょうだい」
桜が咲いているうちに。
「結弦の部屋からも桜が見える?」
たしかマンションの隣りの公園に桜が植わっていたよね。
「え、うん。ちょっと待って。―――見えるよ」
窓を開ける音の後、結弦が答えた。
本当は、同じ桜を見たかったな。
残念……。
「綺麗だね……」
目を閉じて、結弦の横顔を思い浮かべた。
その澄んだ瞳に桜の花びらを映したあなたは、きっと幻想的で儚い。
儚さの中に、息づく強い信念。
誰よりも、好きだったよ。
「……あのさ、A」
「なに?」
「約束守れんくて、ごめんね」
感受性の豊かな結弦は、私の声だけでなにかを察したみたい。
「来年は一緒にお花見できるようにするから」
「うん」
ありがとう、その言葉だけで十分。
「ねえ、結弦」
「ん?」
「―――私たち、もう終わりにしよう?」
来年も桜の季節は巡ってくる。
私は、満開に咲いた桜の下で、結弦を思い出す。
結弦の頭上にも、桜の花弁が優しく舞い降りて、幻想的な景色を見せるだろう。
そのとき、私の隣りにいるのは結弦じゃない。
結弦の隣りにいるのも、私じゃない。
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エミル(プロフ) - くっきーさん» 短編、楽しみにしてもらえて嬉しいです!GIFT、想像をはるかに超えたショーでした。ハマりすぎて更新が滞っていますが、しばしお待ちくださいね。 (2023年3月2日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
くっきー(プロフ) - やっぱりエミルさんの短編すごく素敵です!泣GIFT大成功でしたね!!これからの展開楽しみです、、 (2023年3月2日 1時) (レス) id: 95130b7885 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 似通った話になりがちなので、新鮮と言ってもらえて嬉しいです(*´ω`*)ファン目線だと羽生さんのそばにいられるだけで幸せ。でも、実際に彼女になる方は大変だし我慢することも多いんだろうなって想像します。本当に幸せになって欲しいと私も思います。 (2022年4月10日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
璃子(プロフ) - なんだか新鮮なお話でした。楽しく読ませて頂きました。実際お付き合いするとなったら…やはり今回の羽生さんのようにお相手を気遣って「俺といて楽しい?」とか気にしそうですよね。何にせよ幸せになって頂きたい方です。 (2022年4月10日 9時) (レス) @page23 id: a68a41f56a (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、ほっこりしていただき、ありがとうございます(*^-^*)長編がアレなので、素直な二人にしました。幸せな羽生さん、増やしたい!会見は、羽生さんらしい世界観でした。 (2022年2月14日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2022年2月12日 22時