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スケート7割、イヤホン3割。
どちらも私の守備範囲外で内容はちんぷんかんぷん。
でも、結弦のよく動く唇や耳触りのいい声、キラキラしている瞳を独り占めできるだけで、とびきり幸せな時間だった。
「本当にお世話になりました」
ようやく出発の準備が整い、搭乗のアナウンスが流れてきたとき、空はほのかに明るくなり始めていた。
行先は同じ日本でもエコノミーとビジネスクラスの結弦とでは、向こうで一緒になることはない。
これで、お別れ。二度会う奇跡はない。
だけど―――
「藍川さん、連絡先交換しとこう?」
なんのためらいもなく、結弦はスマホを差し出してきた。
「連絡先ですか?」
「うん、だって、さっきおすすめしたイヤホン、後で型番送りたいし」
あまりに自然で当然のように結弦が言うから、私もそれもそうだなと思い、スマホにQRコードを表示した。
きっと、二人とも寝不足でおかしなテンションになっていたせいだ。
こうして、私は王子様とつながる手段を手に入れた。
他愛ないメッセージのやりとり、不定期の電話。
いつしか敬語がなくなり、お互いに名前呼びになって―――数か月後。
「―――好きです」
帰国した結弦が宿泊しているホテルに会いに行った私は、部屋に入った途端、結弦に抱きしめられて告白された。
いきなり、だけど。
ずっとメッセージと電話だけだったけど。
平昌で2連覇したばかりの超多忙な結弦から「会いたい」と告げられたときから、なんとなく、予感はしていた。
結弦にも私の気持ちはダダ漏れしていたはず。
それでも、相手が相手なだけに過分な期待は厳禁と身構えていた私は、結弦のまっすぐで熱っぽい瞳と優しく重ねられた唇に一瞬で夢心地にさせられた。
結弦と私は正反対だ。
ひたすら高みを目指し、成長するための努力を怠らない結弦。
今の境遇に満足を見出そうとする私。
逆境に立ち向かう結弦に対して、私は最初から勝負を放棄するタイプ。
高温と低温。
プラスとマイナス。
対極にいるから、私たちは惹かれ合っていた。
光り輝く王子様に相応しいお姫様ではないけれど、私が結弦に劣等感を抱くことも卑屈になることもなかったのは、向上心も競争心もないこの性格だったから。
自分は自分、結弦は結弦。
比べるのは無意味。
そう割り切ることができた。
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エミル(プロフ) - くっきーさん» 短編、楽しみにしてもらえて嬉しいです!GIFT、想像をはるかに超えたショーでした。ハマりすぎて更新が滞っていますが、しばしお待ちくださいね。 (2023年3月2日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
くっきー(プロフ) - やっぱりエミルさんの短編すごく素敵です!泣GIFT大成功でしたね!!これからの展開楽しみです、、 (2023年3月2日 1時) (レス) id: 95130b7885 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 似通った話になりがちなので、新鮮と言ってもらえて嬉しいです(*´ω`*)ファン目線だと羽生さんのそばにいられるだけで幸せ。でも、実際に彼女になる方は大変だし我慢することも多いんだろうなって想像します。本当に幸せになって欲しいと私も思います。 (2022年4月10日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
璃子(プロフ) - なんだか新鮮なお話でした。楽しく読ませて頂きました。実際お付き合いするとなったら…やはり今回の羽生さんのようにお相手を気遣って「俺といて楽しい?」とか気にしそうですよね。何にせよ幸せになって頂きたい方です。 (2022年4月10日 9時) (レス) @page23 id: a68a41f56a (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、ほっこりしていただき、ありがとうございます(*^-^*)長編がアレなので、素直な二人にしました。幸せな羽生さん、増やしたい!会見は、羽生さんらしい世界観でした。 (2022年2月14日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2022年2月12日 22時