＊ ページ35
「ねー、キスしていい？」
「え！？」
両想いだとわかった途端、歯止めが効かなくなる。
「む、無理、無理です！」
顔を真っ赤にしたAちゃんがブンブンと首を振る。
「なんで？」
「ゆづくんと、キ、キスだなんて……畏れ多いです」
「えー、俺に抱きついているくせに、それ言う？」
顔を近づけてからかうと、Aちゃんが焦って離れようとするから、
「だーめ、離さない」
ギュっと、胸の中に閉じ込めた。
「あー、可愛い。好き、めっちゃ好き」
二十七にもなって浮かれすぎだとわかっているけど、感情を自制できそうにないし、開き直ってしまおうと思った。
「大好き」
何度紡いでも、この気持ちは表せない。
「……ゆづくん……」
背中に回された手も、真っ赤になった耳も、髪の香りも……全部、愛しい。
「Aちゃん」
「はい」
「ほっぺならキスしてもいい？」
この会場を出たら、またしばらく会えないと思うと、少しでも関係を深めたかった。
「え、えっと……あの……」
「嫌なら、しないよ」
無理強いして、嫌われたくない。
「……嫌じゃない、です」
「Aちゃん、好きだよ」
俺はAちゃんの両肩に手を置くと、顔を傾けて柔らかな頬に口づけた。
瞼を伏せたAちゃんの震える睫毛を見つめていたら、薄く開いた綺麗な黒い瞳と目が合う。
大切で愛おしくて泣きだしたくなるような、不思議な感覚。
「……なんか、夢みたいです」
「俺も」
「ゆづくんは大人の男性で、私なんか相手にされないと思っていました」
「それ誤解。俺はAちゃんが思うほど大人じゃないよ」
俺はAちゃんの手を取って、自分の左胸に当てる。
「ほらね」
「……鼓動が早いです」
「Aちゃんにドキドキしてるの」
臆面もなく言ってのけると、Aちゃんの顔がみるみる真っ赤になっていく。
「俺がAちゃんに夢中だってわかってくれた？」
「う、うん」
「引いてる？」
「え？ ま、まさか。嬉しいです、すごく」
「ふふ、よかった」
名残を惜しむように、今度は額にキスを落とす。
見慣れたリンクも、光を落とした照明も、空気の色さえも、眩しいほど色鮮やかに映る。
ただ、恋が叶っただけで、こんなにも世界が変わる。
新しい世界を与えてくれたAちゃんに感謝しながら、俺はもう一度強く抱きしめた。
(完)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 235人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - くっきーさん» 短編、楽しみにしてもらえて嬉しいです！GIFT、想像をはるかに超えたショーでした。ハマりすぎて更新が滞っていますが、しばしお待ちくださいね。 (2023年3月2日 21時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
くっきー(プロフ) - やっぱりエミルさんの短編すごく素敵です！泣GIFT大成功でしたね！！これからの展開楽しみです、、 (2023年3月2日 1時) (レス) id: 95130b7885 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 似通った話になりがちなので、新鮮と言ってもらえて嬉しいです(*´ω｀*)ファン目線だと羽生さんのそばにいられるだけで幸せ。でも、実際に彼女になる方は大変だし我慢することも多いんだろうなって想像します。本当に幸せになって欲しいと私も思います。 (2022年4月10日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
璃子(プロフ) - なんだか新鮮なお話でした。楽しく読ませて頂きました。実際お付き合いするとなったら…やはり今回の羽生さんのようにお相手を気遣って「俺といて楽しい？」とか気にしそうですよね。何にせよ幸せになって頂きたい方です。 (2022年4月10日 9時) (レス) @page23 id: a68a41f56a (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、ほっこりしていただき、ありがとうございます(*^-^*)長編がアレなので、素直な二人にしました。幸せな羽生さん、増やしたい！会見は、羽生さんらしい世界観でした。 (2022年2月14日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2022年2月12日 22時
