＊ ページ27
「あら、デート？」
鏡の前で念入りに髪をチェックしていたら、洗面所の前を通りかかった母親に問われた。
「えー、あー、うん」
一瞬、誤魔化そうかと思ったけど、母親に隠し通せないのはわかっているので、素直に認める。
「そう、楽しんでらっしゃいね」
「うん」
よかった、あまり追及されなくて。
と、安堵したのも束の間、
「結弦」
洗い立てのタオルを棚におさめながら、母親が改まった口調で俺の名前を呼んだ。
「……なに？」
「あなたが誰と付き合おうと自由だけど、バースコントロールだけはきちんとしておきなさいね」
「―――は？」
鏡越しに母親と目が合う。
「あなたのためにも、相手の女性のためにも、ね。一応、言っておくわよ」
「………………」
反応できずにいる俺を一瞥した母親は、表情一つ変えずに出て行った。
……ビビった。
成人してから、母親に私生活や交友関係であれこれ口を挟まれたことがなかったし、この手の話は父親ともしたことがなかったから。
突然すぎだろ。
っていうか、この年齢になって母親から性教育的指導をされるとは……。
Aちゃんの住むマンションはわりと近くにあって、これまでもマンションの下までは送ったことがあった。
「あ、このプーさん、俺があげたやつ？」
淡いピンクと白を基調にしたインテリアがAちゃんらしいなと見回していると、プーのぬいぐるみがベッドの上にちょこんと置かれてるのに気づく。
一人暮らしが淋しいというAちゃんに、たくさん持っているプーのうち一つをあげたのは結構前のこと。
あの頃は妹としか見てなかった。
「はい、毎晩一緒に寝てます」
「へー」
くそ、プーの奴。うらやましすぎる。
プーを手に取って頭を撫でてやると、ふわっと甘い香りが鼻をくすぐる。
Aちゃんの匂いだ。
……ヘンタイか、俺は。
「ゆづくん、座っててくださいね」
「ん、なんか手伝おうか？」
キッチンに立つAちゃんに聞くと、Aちゃんは目を見開く。
「ゆづくん、お料理できるんですか？」
「……いや、切るとか焼くぐらいならできるかな」
「ふふ、そうなんですね。じゃあ、焼くときにお願いしようかなぁ」
人差し指を唇に当てて、首をかしげるAちゃん。
可愛いという単語しか思い浮かばない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 235人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
エミル(プロフ) - くっきーさん» 短編、楽しみにしてもらえて嬉しいです！GIFT、想像をはるかに超えたショーでした。ハマりすぎて更新が滞っていますが、しばしお待ちくださいね。 (2023年3月2日 21時) (
レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
くっきー(プロフ) - やっぱりエミルさんの短編すごく素敵です！泣GIFT大成功でしたね！！これからの展開楽しみです、、 (2023年3月2日 1時) (レス) id: 95130b7885 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 璃子さん» 似通った話になりがちなので、新鮮と言ってもらえて嬉しいです(*´ω｀*)ファン目線だと羽生さんのそばにいられるだけで幸せ。でも、実際に彼女になる方は大変だし我慢することも多いんだろうなって想像します。本当に幸せになって欲しいと私も思います。 (2022年4月10日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
璃子(プロフ) - なんだか新鮮なお話でした。楽しく読ませて頂きました。実際お付き合いするとなったら…やはり今回の羽生さんのようにお相手を気遣って「俺といて楽しい？」とか気にしそうですよね。何にせよ幸せになって頂きたい方です。 (2022年4月10日 9時) (レス) @page23 id: a68a41f56a (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 鹿さん» 鹿さん、ほっこりしていただき、ありがとうございます(*^-^*)長編がアレなので、素直な二人にしました。幸せな羽生さん、増やしたい！会見は、羽生さんらしい世界観でした。 (2022年2月14日 21時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：エミル | 作成日時：2022年2月12日 22時
