二つの本音−5 ページ22
「―――だったら、もういいっ。私たち、わかり合えないよ」
自室のドアを開けようとした私の耳に飛び込んできた、穏やかならぬ声。
私は隣りの航希の部屋のドアに目を向ける。
「……もういいって、別れるってこと?」
続いて聞こえてきた低い声は、弟のもの。
玄関に航希のトレシューと並んで女子サイズのローファーがあったから、彼女が来ているんだなとは思っていたけど……これは、修羅場?
「べ、べつに、そういうわけじゃ……」
「俺にはわかり合うことを放棄したって聞こえた。それなら、別れよう」
「え、ちょっと、待ってよ」
あのお調子者の弟からは想像つかない冷淡な声と、それとは対照的な焦った様子の女の子。
気になるけど、これじゃ立ち聞きだ。
足音を立てないようにこの場を去ろうとしたら―――ドアがバンッと開く。
「……あ……」
「…………っ」
顔を真っ赤にした女の子と目が合う。
十代の女子特有の艶々の肌と髪、ぱっちりとした瞳には涙が浮かんでいた。
彼女は私の脇をすり抜けて、階段を降りていく。
しばらくして、玄関のドアが閉まる音が響いた。
「……姉ちゃん、帰り早いじゃん」
制服姿の航希が決まり悪そうに私を見る。
「え、うん。少し体調悪くて早退したの。……それより、彼女、追わなくていいの?」
「あー、いいよ。面倒くさい」
「面倒って、彼女泣いていたよ?」
弟の後について彼の部屋に入ると、「座れば?」とベッドを勧められた。
面倒くさいというのが男子高校生らしい口癖だとしても、泣いていた女の子が可哀そうになる。
「―――隼人と喧嘩してさ」
「隼人くんと?」
隼人くんというのは、航希が高校に入ってから仲良くなった同級生で、家にも何度か遊びに来ていた。
「あいつ、さっきの彼女ね、隼人の幼馴染なんだよ」
「へぇ」
親友の幼馴染という縁で付き合い始めたって感じなのかな。そういえば、さっきの子、航希とは違う高校の制服だった。
「隼人との喧嘩は……まあ、たいした原因でもないし、お互いに謝って終わっているんだけど」
「うん」
「喧嘩したことを隼人から聞いたあいつが俺に文句をつけてきて、言い争ううちに別れ話になったってわけ」
航希は脱いだブレザーを椅子の背にかけてから、椅子にドサッと座った。小学生のときから使用している椅子のスプリングがギシリと音を立てる。
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にき(プロフ) - ヒロイン思わせぶりすぎる笑熱愛報道出ても好きな相手のこと信じてやれって!笑 (2022年12月20日 2時) (レス) @page37 id: ab0684a449 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - ほびまほぷさん» ほびまほぷさん、コメントありがとうございます。ここまですれ違うかなーと思いながら書いていました(^_^;)更新楽しみにしてくださるとのこと、今後も頑張ります! (2022年2月10日 9時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
ほびまほぷ(プロフ) - 2人がすれ違いすぎてめちゃくちゃ泣けました、、更新楽しみにしてます! (2022年2月10日 0時) (レス) @page45 id: ab6c13b289 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 凛音さん» 凛音さん、コメントありがとうございます。もちろん、最後はハッピーエンド……のつもりです! (2022年2月6日 19時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - 2人が結ばれますように…!!! (2022年2月6日 4時) (レス) @page44 id: f2426a3f71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2022年1月14日 14時