冷たい手−1 ページ12
閉館を知らせる音楽が流れる中、私は館内に誰も残っていないことを確認し、表のドアの施錠をする。
「青木さん、上がろっか」
「はーい」
カウンターの片づけをしていた青木さんに声をかけると、奥の事務室へ入る。
ロッカーに仕舞っていたバッグの中からスマホを取り出して見るけど、メッセージも着信も入っていなかった。
昨日の朝以降、結弦くんから連絡がない。
こんなに間隔が空くのは、初めてだ。
メッセージ、送ってみようかな。
でも、カナダへ行く準備で忙しくしていたら、迷惑になっちゃうかも……。結局、私は立ち上げたアプリを閉じる。
「綾瀬さん、ご飯でも食べて帰りません?」
裏口を出たところで、青木さんからお誘いを受ける。
なんとなく気乗りしなくて、返答を躊躇していたら、手に持っていたスマホからブーン、ブー……ンと振動が伝わってきた。
画面に表示されているのは、結弦くんを示すイニシャル。
私は青木さんに断って、彼女から距離を取り、通話ボタンをタップした。
「―――もしもし?」
『後ろ』
「はい?」
『後ろ見てって言ってんの』
平坦な調子で放たれた言葉に一瞬ポカンとしてしまうけど、私は慌てて後ろを振り返って。以前ここへ結弦くんが来たときと同じ、駐車場の端っこに停まっているダークブルーの車を見つける。
え、どうしよう。
背後にいる青木さんの手前、私がまごついていると、エンジン音とともにヘッドライトが点灯し、ゆっくりと車がこちらに近づいてきた。
「あれ、綾瀬さんの知り合いですか?」
いつの間にか隣りに立っていた青木さんが目を凝らすように車を見ている。
「もしかして、あの銀行マンの人!?」
「え、ち、違う」
「じゃ、彼氏ですか?」
「いや……」
青木さんから車を隠すように立った私は、肩越しに結弦くんのほうへ目をやる。
幸い、ヘッドライトが眩しいせいで、車の中までは見通せなかった。
「ごめん、今日はここで。お疲れさま!」
「えー、紹介してくれないんですか?」
「それは、また今度!」
立ち去りがたくしている青木さんを置いて、私は小走りで車へ近づいた。
青木さんはまだ元の場所にいたけど、私が手を振ると、ぺこりとお辞儀をして出口へ歩いて行った。
……よかった。
肩で息をついた私は、助手席のドアを開けた。
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にき(プロフ) - ヒロイン思わせぶりすぎる笑熱愛報道出ても好きな相手のこと信じてやれって!笑 (2022年12月20日 2時) (レス) @page37 id: ab0684a449 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - ほびまほぷさん» ほびまほぷさん、コメントありがとうございます。ここまですれ違うかなーと思いながら書いていました(^_^;)更新楽しみにしてくださるとのこと、今後も頑張ります! (2022年2月10日 9時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
ほびまほぷ(プロフ) - 2人がすれ違いすぎてめちゃくちゃ泣けました、、更新楽しみにしてます! (2022年2月10日 0時) (レス) @page45 id: ab6c13b289 (このIDを非表示/違反報告)
エミル(プロフ) - 凛音さん» 凛音さん、コメントありがとうございます。もちろん、最後はハッピーエンド……のつもりです! (2022年2月6日 19時) (レス) id: 68edaa3183 (このIDを非表示/違反報告)
凛音(プロフ) - 2人が結ばれますように…!!! (2022年2月6日 4時) (レス) @page44 id: f2426a3f71 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エミル | 作成日時:2022年1月14日 14時